カスハラ 2021.11.11

【判例あり】カスタマーハラスメントで裁判できるのか?該当する違法行為を5つ紹介

「従業員への暴言や理不尽な要求に悩んでいる」
「カスタマーハラスメントで裁判は起こせるのか?」
「カスハラの裁判例が知りたい」

企業にとって顧客は、非常に大切な存在です。しかし、行き過ぎた行動をとる顧客に対しては、毅然とした態度で対応する必要があります。

たとえ顧客であっても、違法行為があれば裁判を起こすことは可能です。そうは言っても「どのような行為がカスタマーハラスメントに該当し、違法となるのか判断が難しい」と考えている方が多いのではないでしょうか。

そこでこの記事では、

  • カスタマーハラスメントの定義
  • カスタマーハラスメントが該当する違法行為
  • 裁判に役立つカスタマーハラスメント対策

について分かりやすく解説します。カスタマーハラスメントへの対処は、企業にとって重要な課題です。ぜひ最後までお読みいただき、社内体制を作る際の参考にしてみてください。

カスタマーハラスメント(カスハラ)の定義をサクッと解説

カスタマーハラスメント(カスハラ)の定義をサクッと解説

カスタマーハラスメントは一般的に「顧客による嫌がらせ」を指します。顧客から従業員への暴言や常識の範囲を超える不当な要求は、代表的なカスタマーハラスメントといえるでしょう。

近年ではSNSの発展などを背景に存在が顕在化し、社会問題にまで発展しています。ここでは、カスタマーハラスメントの定義を2つの観点から解説します。

  1. クレームとの違い
  2. カスタマーハラスメントに該当する行為

では、1つずつ見ていきましょう。

1. クレームとの違い

カスタマーハラスメントとクレームの間に、法律上の違いが示されているわけではありません。一般的にカスタマーハラスメントは企業や従業員に対する攻撃意図が含まれる行為を指します。

一方で、クレームは「商品やサービスに対する改善要求」に対して使われることが多いです。しかし、これらはあくまで一つの基準にすぎません。

実際には様々なケースが存在するため、各々の事象において冷静な判断が必要です。クレームとカスタマーハラスメントの区別を現場に一任するのではなく、企業として統一した基準を定めておくことが求められます。

2. カスタマーハラスメントに該当する行為

顧客から従業員に対する暴言や暴力は、カスタマーハラスメントに該当するケースが多いです。カスタマーハラスメントの具体例には、以下のようなものがあります。

  • 「アホ」「ボケ」などの暴言
  • 胸ぐらを掴む、頭を叩くといった暴行
  • 大声で怒鳴りながら数時間に及ぶ苦情
  • 土下座の強要
  • 金銭や物品の要求

このような行為はカスタマーハラスメントに該当するだけでなく、罪に問われる可能性もあります。顧客だからといって不当な要求を認めてしまうと、従業員、ひいては企業全体に甚大な被害が及びます

企業を守っていくためにも、カスタマーハラスメントに対しては毅然とした態度で接する必要があるのです。

カスタマーハラスメントの定義をさらに詳しく知りたい方は、関連記事「【徹底解説】カスタマーハラスメントの意味と企業がとるべき対策7選【相談先紹介あり】」をご覧ください。

カスタマーハラスメントで裁判は起こせる【判例を紹介】

カスタマーハラスメントで裁判は起こせる【判例を紹介】

実際にカスタマーハラスメントで、裁判を起こすことは可能なのでしょうか。ここでは、カスタマーハラスメントに対し妨害行為の差し止めや賠償が命じられた判例をご紹介します。

今回の事例で争点となったのは、自治体職員に対する住民の暴言や悪質な要求です。大阪市は、職員への暴言や膨大な数への情報公開請求などを繰り返した住民に対し、業務に支障をきたしたとして面談強要行為の差し止め・損害賠償請求を行いました。

被告となった住民は、特定の職員の略歴といった情報公開請求を合計53回行い、多い時には1日に5~6回もの電話をかけ、暴言や侮蔑的な発言を繰り返していたといいます。

平成28年6月15日の判決で大阪地方裁判所は、住民による業務妨害を認定し、市側の差し止め請求と80万円の賠償請求を認めました自治体にとっての顧客である住民が、カスタマーハラスメントとして訴えられた事例です。

カスタマーハラスメントを裁判を起こすことが決して不可能ではないことを、ご理解いただけたのではないでしょうか。

カスタマーハラスメントで裁判の対象となる5つの違法行為

カスタマーハラスメントで裁判となる違法行為

カスタマーハラスメントで裁判を起こすためには、その行為がどのような罪に該当するのかを理解しておく必要があります。ここでは、カスタマーハラスメントによくある代表的な5つの違法行為をご紹介します。

  1. 脅迫罪
  2. 強要罪
  3. 威力業務妨害罪
  4. 恐喝罪
  5. 不退去罪

1つずつ見ていきましょう。

1. 脅迫罪

脅迫罪とは、相手方またはその親族の生命・身体・自由・名誉・財産に対し、害を加える旨を告知して人を脅迫する罪のことです。刑法第222条で禁じられており、2年以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられます。

脅迫罪に該当するカスタマーハラスメントは、以下のようなケースです。

  • 暴力団などとの関係を匂わせて不当な額の賠償請求をする
  • 「担当者の住所と名前は覚えた」「家族に何があっても知らないからな」などと発言する

職員の生命や財産に害を加えることを示唆する言動は、脅迫罪に該当する可能性があります。

2. 強要罪

強要罪は、意思決定の自由を脅かし身体活動の自由を侵害する罪のことを指します。相手方の身体や財産に危害を加える旨を示唆して、本来は義務のないことを行わせたり妨害したりする行為です。

刑法第223条で禁じられており、罰則として3年以下の懲役が適用されます。カスタマーハラスメントで強要罪になり得るのは、以下のような事例です。

  • 通常の謝罪だけで満足せず土下座を強要する
  • 従業員に謝罪文を書くよう怒鳴りつける

相手に恐怖心を与え、義務のないことを行わせようとする行為などが強要罪に該当します。

3. 威力業務妨害罪

威力業務妨害罪とは、威力を用いて他人の業務を妨害する罪のことです。刑法第234条が禁じており、3年以下の懲役または50万円以下の罰金に処せられます。

威力業務妨害罪に当たる可能性があるのは、以下のようなケースです。

  • 1日に何度も要件のない電話をかける
  • 毎日店頭でクレームを言い続ける

特に相手の業務を妨害する意図が明らかである場合は、威力業務妨害罪が成立しやすくなります。

4. 恐喝罪

恐喝罪とは、他人を脅して恐怖心を抱かせることにより、金銭などの利益を得ようとする犯罪です。カスタマーハラスメントとして考えられる事例は、以下の通りです。

  • 「ネットで悪評をばらまく」などと脅して慰謝料を支払わせる
  • 暴力団などとの関係を匂わせて無料でサービスを提供させる

恐喝罪は刑法第249条が禁じ、10年以下の懲役に処せられます。

恐喝罪においては、相手の財産的処分行為があったかどうかが重要となります。ただし、仮になかった場合でも、未遂として罪に問われることがあります。

5. 不退去罪

不退去罪は、他人の住居や他人が管理・支配する家屋・建造物・艦船から退去するよう要求されたにもかかわらず、正当な理由なく退去しない罪のことです。

刑法第130条後段が禁じ、3年以下の懲役または10万円以下の罰金に処せられます。

  • 閉店時間を過ぎても店舗に残り文句を言い続ける
  • 帰るよう要求しているにもかかわらず数時間にわたり居座り続ける

上記のように退去の要求に応じず居座り続ける場合、不退去罪が成立する可能性があります。

カスタマーハラスメントが企業にもたらす3つのリスク

カスタマーハラスメントが企業にもたらすリスク

カスタマーハラスメントを放置し続けることは、企業にとって大きなリスクと言えます。カスタマーハラスメントが企業にもたらすリスクとして考えられるのは、以下の3つです。

  1. 従業員の健康被害
  2. 離職率の増加
  3. 労働契約法における安全配慮義務違反

それでは、1つずつ解説していきます。

1. 従業員の健康被害

カスタマーハラスメントは、従業員に大きな精神的ストレスを与えます。ストレスを受け続ければ、心身の健康を害するリスクが高まるでしょう。

また、企業内で明確な対処法が定められていない場合、カスタマーハラスメントの対処は個々の従業員へ委ねられます。適切な対処方法が分からない上に、誰にも相談できない状況が生まれてしまうのです。

従業員の健康被害が発生することで全体のパフォーマンスが低下し、商品やサービスの質に悪影響を与える可能性があります。

2. 離職率の増加

カスタマーハラスメント被害を受けている企業で懸念されるのが、人材の流出です。従業員が続々と離れ人手不足となることで、事業が停滞することが考えられます。

カスタマーハラスメントを受けている従業員は、同じ職場で働き続けることが難しくなるでしょう。そのため、将来的に休職または退職する可能性が高まります。

さらに、自社にカスタマーハラスメントのイメージが付くと優秀な人材も集まりにくくなります。長期的に人材不足が続けば、企業の運営は次第に難しくなっていくでしょう。離職率の増加は、企業経営にも影響を与える課題になりかねません。

3. 労働契約法における安全配慮義務違反

労働契約法第5条は「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」と規定しています。

企業は、従業員の安全に配慮しなければならないという安全配慮義務を負っているのです。

条文中の「生命、身体等の安全」には、心身の健康も含まれます。したがって、従業員にストレスを与えるカスタマーハラスメントを放置すれば、安全配慮義務違反となる可能性があるのです。最悪の場合は、従業員から損害賠償請求される可能性があるので注意が必要です。

裁判に役立つ企業のカスタマーハラスメント対策3選

裁判に役立つ企業のカスタマーハラスメント対策3選

従業員や顧客を抱える企業ならば、カスタマーハラスメントへの対策は必須です。実際に裁判を行う状況になった場合でも効果のある、3つの対策をご紹介します。

  1. 社内の報告体制を確立させる
  2. 客観的な記録を収集しておく
  3. 警察や弁護士への相談体制を整える

では、1つずつ見ていきましょう。

1. 社内の報告体制を確立させる

カスタマーハラスメント対策として重要なのは、一人で抱え込まず組織的に対応することです。

発生したクレームを社内で共有することで、問題に対し迅速かつ適切な対応がとれます。具体的に有効となるのは、以下のような対策です。

  • 従業員から報告を受ける窓口を常設し、知識や経験のある職員を配置する
  • クレームに対する判断基準をまとめ、対応を企業内で統一する

カスタマーハラスメントに企業全体で対応することは、従業員の安心にもつながります。社内の報告体制は、できるだけ早く構築することがおすすめです。

2. 客観的な記録を収集しておく

適切な措置を講じても事態が収まらないときは、裁判などの法的手段に訴える可能性があります。ただしその場合、カスタマーハラスメントがあったことを客観的に証明する「証拠」が求められます。

  • 防犯カメラ映像
  • 録音音声
  • 来店日時や回数
  • 従業員がハラスメントの内容を記録したメモ

など、些細な情報でも日頃から収集しておきましょう。証拠収集に関するルールを企業内で統一しておくと、従業員の意識を高めることができます。

3. 警察や弁護士への相談体制を整える

カスタマーハラスメント対策の要となるのが、地域行政や警察、弁護士への相談体制です。裁判だけでなく、刑事事件に発展するような重大な問題が発生した場合も、迅速かつ適切に対処できます。

具体的には、以下のような取り組みが有効です。

  • 専門部署や担当者の配置
  • 担当者に対する法律などの専門知識教育
  • 顧問弁護士の設置

特に顧問弁護士の設置は、相談体制の強化につながります。裁判だけでなく、日頃のクレーム対応といった身近な課題への相談も可能となるのでおすすめです。

カスタマーハラスメントの裁判には弁護士への相談がおすすめ

カスタマーハラスメントの裁判には弁護士への相談がおすすめ

カスタマーハラスメントは、対応を間違えると企業に大きな損失を与えかねません。しかし、現場の判断だけでは対処が難しいことも事実でしょう。

カスタマーハラスメントに立ち向かうために重要なのは、企業としての体制づくりです。従業員からの報告体制を整備しておけば、たとえ裁判になったとしても準備に慌てることがありません。

カスタマーハラスメントに対する体制づくりの助けになるのは、警察や弁護士への相談体制です。特に弁護士にすぐ相談できる体制は、企業の大きな強みとなります。

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