「カスタマーハラスメントって何のこと?」
「顧客からの迷惑行為に困っている」
「カスハラと正当なクレームの見分け方が難しい」
顧客から理不尽なクレームを受けるという事象は、以前から存在していました。しかし近年、SNSの普及などでクレームの実態が広く知れ渡るようになり「カスタマーハラスメント」として社会問題となっています。
そのような状況下で「カスタマーハラスメントの範囲や対処法がわからない」という悩みを抱えている方が、多いのではないでしょうか?
そこでこの記事では、
- カスタマーハラスメントの定義
- カスタマーハラスメント対策
- カスタマーハラスメントの相談先
について解説します。企業の労務部門の担当者から現場でカスタマーハラスメントに悩まれている方にも、役立つ記事となっています。ぜひ最後までお読みください。
カスタマーハラスメント(カスハラ)の意味を解説
「自身が受けている行為がカスタマーハラスメントに該当するかわからない」と考えている方は、多いのではないでしょうか?ここでは、カスタマーハラスメントの意味を以下の3つの観点で解説します。
- カスタマーハラスメントの定義
- カスタマーハラスメントと正当なクレームの違い
- カスタマーハラスメントの事例
それでは解説していきます。
1. カスタマーハラスメントの定義
カスタマーハラスメントとは、顧客がサービスの提供者を「暴言」や「理不尽な要求」で困らせる行為を指します。
カスタマーハラスメントは、顧客側の「お金を払っている」というサービス提供者に対する有利な立場を利用して行われます。サービスの提供者側の「お客様の言うことを聞かなくてはならない」という意識が、カスタマーハラスメントを加速させているのが実情です。
しかし、お金を「払っている側」と「受け取っている側」という立場の違いはあっても、お互いが尊重されるべきでしょう。
サービスを提供する企業も従業員も、古くからの「お客様は神様」という概念を見直して、カスタマーハラスメントに対応することが求められています。
2. カスタマーハラスメントと正当なクレームの違い
カスタマーハラスメントは「理不尽な要求」ですが、クレーム自体に否定的な意味はなく「要求・希望・期待」などを指します。正当なクレームとは、以下の様なケースにおける指摘です。
- 配送業で予定の配達日を遅延した
- 飲食店の料理が美味しくない
- 明らかに店員の態度が悪い
- スタッフの見た目が不潔であった
サービス提供者に悪意はなくとも、顧客の要求する価値を提供できなかったりミスをしたりすることがあるでしょう。顧客から正当なクレームを受けた際は、サービス提供者は謝罪や品質改善など適切な対応を取る必要があります。
一方で、クレームの範疇を超えたカスタマーハラスメントの場合は、毅然とした対応が必要です。しかし、カスタマーハラスメントと正当なクレームには、明確な線引きが難しい状況があります。判断に迷う場合は、弁護士などの専門家に相談するのがおすすめです。
なお、カスタマーハラスメントと正当なクレームの違いについては、関連記事「【もう悩まない】客からのハラスメントと正当なクレームの違いは?企業が取るべき4つの対策を紹介」で詳しく解説していますので、ぜひご覧ください。
3. カスタマーハラスメントの事例
一口にカスタマーハラスメントと言っても様々なケースがあり、代表的な事例は以下のようなパターンです。
- 大声で怒鳴るなど威嚇的な態度を取ったり暴言を吐いたりする
- 従業員を必要以上の時間拘束する
- 「誠意を見せろ」といった抽象的で対応が難しい要求をする
- 土下座など常識の範疇を超えた謝罪を強要する
- 慰謝料や迷惑料といった被った損害以上の金銭的な要求をする
このような事象が増えている背景には「顧客至上主義の価値観」と「過剰なサービス競争」があります。提供する商品自体での差別化が難しくなり、対価以上のサービスを受けるのが当然といった価値観が定着しているのが原因です。
「自分が満足できるサービスを提供できなかったお店や企業が悪い」といった考え方が、根底にあると考えられます。カスタマーハラスメントに該当する事例は増えているので、注意が必要です。
関連記事の「【21年11月最新】企業に損害を与えるカスハラ事例4選【対応策を紹介】」ではカスタマーハラスメントの事例を種類別に解説しています。こちらもぜひ確認してみてださい。
企業にはカスタマーハラスメント対策の義務がある
カスタマーハラスメントは当事者だけの問題ではなく、企業にも対策の義務があります。令和2年1月の厚生労働省告示第5号において示されたのが、顧客からの迷惑行為に関する以下のような指針です。
- 従業員からの相談に適切な対応をする体制の整備
- 被害者のメンタルヘルス不調などへの相談対応
- ハラスメント対策のマニュアル作成や研修の実施
厚生労働省は事業者に対して、上記のような対応をすることが望ましいと示しています。また、実際にスタマーハラスメントを受けた従業員は、心身に悪影響を及ぼし休職や離職をしてしまうリスクがあるでしょう。
さらに従業員が精神疾患などの健康被害を発生させた場合、安全配慮義務違反となり企業側が責任を負う可能性があります。従業員のためにも企業全体のためにも、カスタマーハラスメント対策に取り組むことが重要なのです。
【社内体制】カスタマーハラスメント対策4選
具体的にどのようなカスタマーハラスメント対策を行っていくべきか、気になる方が多いのではないでしょうか。ここでは、社内体制に関する対策を4つ紹介します。
- カスタマーハラスメントへの態度を明確にする
- カスタマーハラスメント対応マニュアルを作成する
- カスタマーハラスメント研修を行う
- 社内の相談窓口を設置する
それでは、1つずつ解説していきます。なお、関連記事の「【円滑に解決】過剰要求を含むクレーム対応のポイント7選!事前対策と相談先を紹介」にてクレーム対策のポイントを詳しく解説しているので、こちらも併せてご覧ください。
1. カスタマーハラスメントへの態度を明確にする
カスタマーハラスメント対策の第一歩は「企業としての態度を明確にすること」です。なぜなら、カスタマーハラスメントに対抗するには、不当な要求を毅然とした態度で断ることが重要だからです。
カスタマーハラスメントは、行き過ぎた顧客至上主義が原因の1つになっています。従業員の立場では、顧客からの強い要求を拒絶するのは難しいでしょう。
そこで企業として、カスタマーハラスメントを行う顧客から従業員を守る姿勢を明確に打ち出すことが求められるのです。
2. カスタマーハラスメント対応マニュアルを作成する
マニュアルを作成するのは、カスタマーハラスメント対策に有効です。実は、企業における顧客からの不当な要求は、ある程度パターン化できます。
マニュアルに記載するべき内容は、以下のようなものです。
- 業務において想定されるハラスメントの事例
- ハラスメント対応において目指すべきゴール
- 事例に対する良い対応とNG対応例
- 社内で過去に受けたハラスメント事例と対応結果
- 顧問弁護士の連絡先
不当な要求や恫喝に対しての切り返し方を共有することで、カスタマーハラスメントに強い企業になっていきます。マニュアル作成にあたっては、クレーム対応の経験豊富な弁護士に監修してもらうのがおすすめです。
しかし、弁護士やコンサルタントに作成を丸投げしても良いマニュアルは出来ません。社員も積極的に参加して、自社の環境や事例を盛り込んだマニュアルを作成しましょう。
マニュアルの具体的な作成方法は、関連記事の「【5分で分かる】カスタマーハラスメント対応マニュアルの作り方【内容から運用のコツまで網羅】」にて解説しています。ぜひご確認ください。
3. カスタマーハラスメント研修を行う
研修を行うことで、クレーム対応の基本動作を確認するのは非常に有効な方法です。知識として知ってはいても、実際にカスタマーハラスメントの現場に遭遇した際、適切な対応ができるとは限りません。
研修ではマニュアルを参照しながら、基本的なカスタマーハラスメントに関する知識を確認します。その際に、具体的な対応法を例示することが重要です。特に実際に社内で対応したカスタマーハラスメント事例があったら、必ず共有するようにしましょう。
さらに研修の中で、ロールプレイングなどを行うのが効果的です。シミュレーションであっても実際に体験することで、座学だけでは得られない気づきがあります。自社内で、定期的にカスタマーハラスメント研修を実施することをおすすめします。
4. 社内の相談窓口を設置する
社内にカスタマーハラスメント専門の窓口を作っておくことで、従業員が安心して業務に従事できます。
カスタマーハラスメントに遭遇した際は、上司に相談することが一般的です。一方で、窓口を一本化するメリットもあります。事例を蓄積することで、社内のカスタマーハラスメントに関するノウハウ形成が期待できることです。
さらに、顧問弁護士にすぐに相談できる体制を作ると効果的です。クレーム対応の判断を誤ると、さらに自社にとって不利な状況となります。弁護士に法律的な観点からアドバイスをもらっておくと、自信を持って対応可能です。
関連記事の「【保存版】企業が使えるカスタマーハラスメントの相談窓口3選【社内の対策も紹介】」にて社外も含めた相談窓口を紹介しています。こちらも、ぜひご覧になってみてください。
【顧客対応】カスタマーハラスメント対策3選
カスタマーハラスメントに対する社内体制を整えても、実際に現場で対応する方にとってはまだまだ不安があるでしょう。ここでは、実際に顧客対応する際の対策を3つ紹介します。
- 相手の話をよく聞く
- 感情的にならない
- 会話を録音する
それでは、解説していきましょう。
1. 相手の話をよく聞く
クレーム対応の際に、相手の話をよく聞くことは重要です。さらに言えば、相手の話を絶対に遮ってはいけません。人は自分の話を遮られると、非常に不快に感じます。相手がさらに態度を硬化させてしまう可能性があるため、一旦相手の話をすべて聞いてから意見を言うようにしてください。
また状況によっては、謝罪が必要な場面があるでしょう。「非を認めると不利な立場になる」「感情的に謝りたくない」と思うかもしれませんが、謝罪には相手の気持ちを落ち着ける効果があります。
謝罪をする際は、以下のように対象を限定するのがおすすめです。
- 不快な思いをさせて申し訳ございません。
- お手間を取らせてしまい誠に恐れ入ります。
- 対応の仕方について大変失礼いたしました。
このように商品やサービスの不備を認めるような謝罪でなければ、保障などを求められるリスクを回避できます。まずは相手の話をしっかり聞いて、適切な対応を取っていきましょう。
2. 感情的にならない
クレーム対応の際は、けっして感情的になってはいけません。こちらが感情的になってしまうと、相手はさらに興奮して場が収まらなくなります。
相手が声を荒げても、冷静に対応することが重要です。クレームを言っている方の怒りは、一過性のものである場合が多いです。相手の話を聞きながら、感情が落ち着くのを待ちましょう。
3. 会話を録音する
クレーム対応の際に、会話を録音することは非常に有効です。まず録音することで「言った」「言わない」のトラブルを防止できます。
「勝手に録音して大丈夫なのか」と思う方がいるでしょうが、相手に断りなく会話を録音することは法律上問題ありません。しかし録音する際は、事前に相手に伝えておくことがおすすめです。
事前に録音する旨を伝えることで、相手が声を荒げたり暴言を吐いたりすることを抑止する効果があります。電話の場合は、応答時に自動メッセージで録音する旨を案内するようにしましょう。
カスタマーハラスメントの相談先
社内で解決が難しい問題が発生した際「どこに相談すれば良いのか」気になる方が多いのではないでしょうか。ここでは、カスタマーハラスメントの相談先を3つ紹介します。
- 弁護士
- 警察
- 行政・市区町村の相談窓口
1つずつ解説していきましょう。
1. 弁護士
カスタマーハラスメントに関する問題は、弁護士に相談することが最も一般的です。産業労働局の「中小企業における消費者等からの苦情対応に関する実態調査」によると悪質クレーム対応で活用した相談先は、弁護士が最も多く24.3%となっています。
弁護士であればカスタマーハラスメントの被害にあった後の対応だけでなく、事前のクレーム対応の相談も可能です。さらにカスタマーハラスメントに精通した弁護士であれば、社内研修を行ってもらえる場合があります。
一口に弁護士と言っても、得意分野は大きく異なります。相談する際はカスタマーハラスメントに強みがあるか、実績なども調べてみましょう。
2. 警察
事件性があるようなカスタマーハラスメントに遭遇した場合は、速やかに警察への相談を検討しましょう。産業労働局の調査では、警察への相談実績は弁護士についで多く15.7%です。
カスタマーハラスメントで該当する可能性が高い罪名は「恐喝罪」や「強要罪」などです。クレーム対応時に相手から恫喝されたり土下座などを強要された場合は、警察への通報を考えるべきでしょう。
一方で警察は、事件性がなければ対応してもらえない可能性があります。カスタマーハラスメント対応の選択肢の1つとして、警察への通報方法を共有しておくのがおすすめです。
警察に相談できるケースは「【解決】カスタマーハラスメント被害で警察に頼れるのか?7つのケースと対処法を紹介」にて詳しく解説してるので、ぜひこちらもご覧ください。
3. 行政・市区町村の相談窓口
市区町村など、行政の窓口に相談する方法もあります。産業労働局の調査では、相談件数は全体の3.9%とまだまだ少ない状況です。カスタマーハラスメントに関して行政が作成したガイドラインなどはなく、まだまだ整備を進めている段階であると伺えます。
一方で、厚生労働省から令和3年7月26日に開催された「第3回 顧客等からの著しい迷惑行為の防止対策の推進に係る関係省庁連携会議」の資料が公表されました。その中で、令和3年度に企業向けマニュアルを作成予定と記載があります。このような行政の動きに連動して各市区町村でも、カスタマーハラスメントについて相談できる体制が整っていくことが想定されます。
まとめ
カスタマーハラスメントは、商品のサービスや改善を求める正統な意見ではなく、従業員を苦しめる行為です。近年はカスタマーハラスメント問題になる事象が増えており、企業にも対策が求められています。
しかし、カスタマーハラスメントと正当なクレームの線引は難しく、社内でも判断に迷う場面が多くあるでしょう。そのようなときは、カスタマーハラスメントへの専門知識をもった弁護士への相談がおすすめです。
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