「介護現場におけるカスタマーハラスメントに苦しんでいる」
「利用者やその家族からのカスハラは防げるのか?」
「事業者としてカスタマーハラスメントに対処したい」
高齢化が進む日本において、介護サービスは無くてはならない存在です。しかし近年、介護現場における利用者や家族等によるハラスメントの発生が指摘されています。
介護は社会的意義のある仕事ですが、カスタマーハラスメントによる職場環境への影響が懸念されている状況です。
そこでこの記事では、
- 介護現場におけるカスタマーハラスメントの実態
- カスタマーハラスメント対策
- カスタマーハラスメントの相談先
について解説します。
職員が安心して働ける環境を築き、円滑な介護サービスを実現するためのポイントを紹介していきますので、ぜひ最後までお読みください。
【特徴は3つ】介護現場におけるカスタマーハラスメントの実態とは
厚生労働省の事業で作成された「介護現場におけるハラスメント対策マニュアル」では、介護現場におけるハラスメントを以下の3つに定義しています。
- 身体的暴力
- 精神的暴力
- セクシュアルハラスメント
これらの定義は、介護現場で発生するカスタマーハラスメントの特徴を端的に示しています。それぞれ詳しく見ていきましょう。
1. 身体的暴力
「身体的暴力」とは、身体的な力を使って危害を及ぼす行為のことです。職員が回避したことで、危害を免れたケースも含まれます。
身体的暴力の例として挙げられるカスタマーハラスメントは、以下のとおりです。
- コップをなげつける
- 蹴る
- 職員の手を払いのける
- たたく
- 手をひっかく、つねる
直接的な対人サービスを行う介護現場では、身体的暴力を含むカスタマーハラスメントが頻繁に発生しています。職員がケガをする可能性もあり、非常に危険な行為です。
2. 精神的暴力
「精神的暴力」は、個人の尊厳や人格を言葉や態度によって傷つけたり、おとしめたりする行為のことを指します。
具体的には、以下のような行為が該当します。
- 大声で暴言を吐く
- 職員に対し批判的な言動を繰り返す
- 威圧的な態度で文句を言い続ける
- 謝罪のため土下座するよう強く求める
- 特定の職員に嫌がらせをする
「暴言」や「職員に対する嫌がらせ」は、カスタマーハラスメントの代表的な特徴です。客として料金を払っている立場を利用し、職員への迷惑行為を繰り返すケースもあります。
精神的暴力によるハラスメントは、介護職員の精神的ストレスを増大させるため注意が必要です。最悪の場合、休職や離職により職員を失う可能性があります。
3. セクシュアルハラスメント
性的な嫌がらせ行為や意に添わない性的誘いかけ、好意的態度の要求等は、セクシュアルハラスメントに該当します。
セクシュアルハラスメントに当てはまるのは、以下のような行為です。
- 必要もなく手や腕をさわる
- 抱きしめる
- 入浴介助中、あからさまに性的な話をする
- 卑猥な言動を繰り返す
- ヌード写真を見せる
介護現場におけるセクシュアルハラスメントは、利用者によるものだけではありません。利用者の家族から被害を受けるケースもあります。継続的に介護サービスを提供しなければならない職員にとって、セクシュアルハラスメントは非常に深刻な問題です。
介護現場でスタマーハラスメントが発生する背景
厚生労働省における「介護現場におけるハラスメントに関する調査研究事業」の実態調査では、4~7割もの介護職員が、利用者からのハラスメントを受けたと回答しています。
介護現場においてカスタマーハラスメントが頻発している状況には、主に3つの背景があると考えられます。
- 過剰なサービスが一般化している
- 人材不足で従業員の育成に手が回らない
- シニア世代のクレーマーが増えている
それでは、1つずつ解説していきます。
1. 過剰なサービスが一般化している
「お金を払っているのだから、やってもらって当たり前」だと考える顧客は少なくありません。
「お客様は神様だ」という言葉に代表されるように、日本には顧客が上の立場だと考える文化があります。こうした顧客優位の考え方は、常に質の高いサービスを求める世間の風潮を生み出しました。
企業同士の競争によりサービスの質が上がり続けた結果、過剰なサービスが一般化したということです。
介護現場においても「職員より利用者が偉い」という考え方は、少なからず存在しています。
2. 人材不足で従業員の育成に手が回らない
介護の現場では、人材不足が特に深刻な問題となっています。
厚生労働省が公表した「第8期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について」では、2025年度には約32万人、2040年度には約69万人の介護職員が追加で必要となる見込みだと発表されました。
人材が足りない場合、職員は十分な研修を受ける前に現場に出ることになります。利用者に対して職員の数が足りないため、新規採用職員も直ちに現場へ配置しなければならないのです。
研修を受けず、業務範囲などへの理解が不足したまま介護サービスを行うことで、利用者とのトラブルに発展する可能性は大きくなります。
3. シニア世代のクレーマーが増えている
疎外感や孤独感、焦りなどを要因として、シニア世代のクレーマーが増えています。
シニア世代のなかには、話を聞いてくれる家族や友人を失ってしまった人も少なくありません。日々積み重なった寂しさは大きなストレスとなり、やがてカスタマーハラスメントへと発展していきます。
シニア世代の利用者が多い介護現場においては、決して見過ごせない状況です。
【事業者向け】介護現場のカスタマーハラスメントに有効な7つの対策
介護現場におけるカスタマーハラスメント対策として、ぜひ実施していただきたい7つの対策をご紹介します。
- 対応マニュアルの作成と共有
- サービスの範囲を事業所内で明確化
- 利用者や家族に対するサービス内容の周知
- 職員に向けた研修の実施
- 苦情の記録・報告の徹底
- クレーム対応に関する専門部署の設置
- 外部機関との連携・活用
事業者の方は、これらの対策を自分の施設で取り組めているか、確認しながらご覧ください。
1. 対応マニュアルの作成と共有
対応マニュアルの作成は、カスタマーハラスメントの基本的な対策の1つです。具体的な予防策のほか、報告・相談のフローといった事業所内でのルールを盛り込むと良いでしょう。
契約解除を検討するケースなど、利用者や家族等の理解を求めなければいけない事項も、ぜひマニュアルに明記しておきたいポイントです。
マニュアル作成後は、実際にハラスメントが発生した要因や初期対応を分析し、定期的にアップデートしていきましょう。
2. サービスの範囲を事業所内で明確化
介護職員がサービスの範囲を十分に理解していない場合、利用者やその家族との間に認識のズレが生じやすくなります。受けられると思っていた介護サービスが提供されなければ、利用者等から苦情が発生するのは当然です。
ミスコミュニケーションに起因したトラブルを未然に防ぐには、職員が介護サービスの範囲を正しく理解する必要があります。
契約書や重要事項説明書の内容を定期的に確認し、利用者等に対する説明方法について話し合う場を設けるなど、事業所全体で取り組みましょう。
3. 利用者や家族に対するサービス内容の周知
利用者やその家族にサービス内容を説明しても、正しく理解してもらえるとは限りません。利用者側に誤解が生じないよう、丁寧に説明する必要があります。
契約書や重要事項説明書を読み上げて説明するなど、利用者へ確実に伝える工夫が重要です。イラスト付きのパンフレットなどを活用するなど、効果的な方法を検討しましょう。
カスタマーハラスメント対策として有効なのは、具体的な事例や契約解除の可能性について認識していただくことです。ただし、利用者側に不快感や不信感を与えないよう十分注意する必要があります。
利用者側が安心して介護サービスを受けられるよう、施設側の虐待防止対策や、介護サービス向上の取り組みについて伝えることが大切です。
4. 職員に向けた研修の実施
職員向け研修の実施は、カスタマーハラスメント対策の意識を向上させる効果的な方法です。定期的に実施することで、サービス内容に対する職員の理解を深めるだけでなく、職員同士の近況報告の場としても機能します。
事業者は職員全員が研修を受けられるよう、勤務時間等に配慮しなければなりません。日程が合わず出席できない職員に対してはオンラインで研修を行うなど、柔軟な対応が求められます。
厚生労働省のホームページでは「職員向け研修のための手引き」や「職員向け研修動画」も公開されていますので、ぜひチェックしてみてください。
5. 苦情の記録・報告の徹底
介護現場において利用者やその家族から苦情を受けたときは、必ず記録と報告を行うよう徹底しましょう。ハラスメントかどうか悩むことも含めて記録することが大切です。
記録すべき事項として挙げられるのは、日時や場所、現場での対応状況といった客観的な情報です。記録後は、速やかに上司や事業所へ報告し、指示を仰ぐことになります。
苦情を受けた職員が落ち着いて対応できるよう、あらかじめ事業所において対応フローを定めておくことがおすすめです。
6. クレーム対応に関する専門部署の設置
カスタマーハラスメントに限らず、職員が一人で問題を抱え込んだり、判断したりしない環境を構築することが大切です。クレームやカスタマーハラスメントに対応する専門部署を設置し、職員が安心して相談できる体制を整えましょう。
専門部署を設置すると、法的な対抗措置や退所要求が検討できるほか、弁護士や警察といった外部機関と連携しやすくなります。組織的な対応が必要な、認知症等の症状に関連した問題を共有することも可能です。
7. 外部機関との連携・活用
外部機関との連携が加わることで、組織の体制はより強固なものになります。カスタマーハラスメントのなかには、施設や事業者だけでは対応が困難な事例もあるため、いざという時に相談できる窓口を把握しておくことが大切です。
以下に挙げる外部機関を参考に、事業所の所在地域に応じた相談先を整理しておきしましょう。
- 地域包括支援センター
- 日本司法支援センター
- 弁護士の法律相談センター
- 各都道府県警察
- 地域の性犯罪被害相談電話
必ずしも事業所だけで、問題を抱え込む必要はありません。問題をより早く解決するため、地域や業界団体と積極的に情報共有を行いましょう。
【保存版】介護のカスタマーハラスメントを相談できる窓口を紹介
ここで、介護現場でカスタマーハラスメントが発生した場合にすぐ相談できる3つの窓口を紹介します。
- 総合労働相談コーナー
- みんなの人権110番(0570-003-110)
- 警察相談専用電話(#9110)
いざという時に役立つ相談窓口を紹介しますので、事業所内への掲示や職員への周知に役立ててください。
社外の相談窓口については、関連記事「【保存版】企業が使えるカスタマーハラスメントの相談窓口3選【社内の対策も紹介】」でも紹介しています。詳しく知りたい方は、ぜひご覧ください。
1. 総合労働相談コーナー
厚生労働省が設置する労働関連の相談窓口です。各都道府県労働局や、全国の労働基準監督署内などの379か所に設置されています。
無料で相談でき、予約は不要です。専門の相談員が、面談か電話で対応してくれます。
2. みんなの人権110番(0570-003-110)
全国共通人権相談ダイヤルとも呼ばれ、人権問題に関わる相談を受け付けています。
法務局職員もしくは人権擁護委員が対応しており、法務局・地方法務局及びその支局では面接による相談も可能です。インターネットからも予約できます。
3. 警察相談専用電話(#9110)
犯罪や事故の発生には至っていないものの、警察に相談したいことなどを相談できます。
対応してくれるのは、相談業務を専門に担当する「警察安全相談員」などの職員です。相談内容によっては、専門の相談機関を紹介してくれる場合もあります。
政府広報オンライン|警察に対する相談は 警察相談専用電話 #9110へ
【補足】介護におけるカスタマーハラスメントに該当しないケース
ここで、カスタマーハラスメントと勘違いされやすい3つのケースを紹介します。
- 認知症等の病気または障がいの症状として現れた言動
- 利用料金の滞納
- 合理性が認められる苦情
これらは、カスタマーハラスメントには該当しないので注意が必要です。
認知症等の病気にはケアマネジャーや医師等と連携して対応するほか、滞納自体は債務不履行の問題として対応することになります。
介護現場におけるカスタマーハラスメントには弁護士への相談がおすすめ
介護現場におけるカスタマーハラスメントを防ぐためには、現場の職員だけでなく、事業者側による取り組みが重要です。特に弁護士や警察といった外部機関との連携は、安心感のある介護現場を支える体制構築に大きく貢献します。
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