「カスタマーハラスメント用の保険があるって本当?」
「カスハラ保険に加入するべきか迷っている」
「メリット・デメリットを知りたい」
企業向けのカスタマーハラスメント保険があることをご存知でしょうか。カスタマーハラスメント保険に加入することで、万が一顧客からの迷惑行為の被害を受けた際に、弁護士への相談費用などを補償してもらえます。
金銭的な支えがあれば、費用面の事情で弁護士への依頼を諦めることなく、カスタマーハラスメント解決への道筋を探せるでしょう。
しかしカスタマーハラスメント保険は珍しく「そもそも保険には加入しておくべきなのか?」「どのように加入先を選べば良い?」など疑問を持っている企業担当者の方が多いのではないでしょうか。
この記事では、カスタマーハラスメント保険の利用を迷っている方に向けて、以下の内容を解説していきます。
- 保険に加入するメリット・デメリット
- おすすめのカスタマーハラスメント保険
- 保険加入時に確認するポイント
近年では、多くの企業がカスタマーハラスメントに遭遇しています。今までカスタマーハラスメントの被害を受けてこなかった企業でも、保険による補償が安心感へとつながるでしょう。
ぜひ本記事をお読み頂き、保険への加入を検討する際の参考にしてみてください。
カスタマーハラスメント保険について解説
そもそもカスタマーハラスメント保険とはどのようなサービスなのか、次の2つの視点から解説してきます。
- 商品の概要
- 発売された背景
従来の保険商品と特徴を比較しながら、確認してみてください。
1. 商品の概要
カスタマーハラスメント保険は、主に事業者向け保険の特約として提供されています。例えば顧客から理不尽なクレームを受けたり、対応を担当した従業員が暴行やセクシャルハラスメントを受けたりした際、保険会社から補償を受けられる仕組みです。
ほとんどのカスタマーハラスメント保険では、弁護士への相談費用の一部を保険金として受け取れます。
また、自社で法務部門を持たない中小企業がカスタマーハラスメントへの対応で困らないよう、コンシェルジュサービスを設置している保険商品もあります。保険に加入すれば、金銭面の補償を受けられるだけでなく「どこに相談すれば良いか分からない」といった不安からも解消されるでしょう。
2. 発売された背景
ワイドショーやネットニュースでカスタマーハラスメントが取り上げられる機会が増え、社会問題となっています。産業別労働組合「UAゼンセン」の流通部門に所属する組合員へのアンケートでは、70.1%が「業務中に来店客からの迷惑行為に遭遇したことがある」と回答するほどです。(参考:UAゼンセン流通部門「悪質クレーム対策(迷惑行為)アンケート調査分析結果」)
このような状況下で、カスタマーハラスメント対策が必要と考える企業は増えています。しかし多くの中小企業では、対策のための人手やノウハウが足りていないのが実情です。弁護士にアドバイスをもらうにしても、費用面の不安から身動きが取れない企業は多いでしょう。
そこで保険サービスが登場したことで、カスタマーハラスメントへの備えがしやすくなりました。損保ジャパンが提供するカスタマーハラスメント対応用の特約では、発売開始から4か月で約1,700社が加入するなど注目を集めています。
カスタマーハラスメント保険のメリット【弁護士費用をフォロー】
カスタマーハラスメント保険に加入しておくメリットは、弁護士費用のフォローを受けられることです。
自社の社員の力だけでカスタマーハラスメントに対応するのが難しい場合、弁護士に頼るケースが多いです。保険で弁護士費用の補償を受けられれば、金銭的な不安が抑えられ、カスタマーハラスメントに対応できます。
高額な弁護士費用の捻出は、中小企業にとって経営上の痛手となるかもしれません。問題に着手するだけで弁護士費用が30万円以上もかかることがあるので、一部だけでも費用が補償されるのは嬉しいポイントです。
カスタマーハラスメント保険のデメリット【保険料の詳細が非公開】
弁護士費用の補償で金銭的なメリットを受けられる反面、カスタマーハラスメントの多くは保険料の詳細を公開していません。事業者向けの保険であるため、個人向け商品のような「Web簡単見積もり」などは実施していないのです。
カスタマーハラスメント保険では、以下のような条件により、申し込み企業ごとに料金が異なります。
- 売上高
- 従業員数
- 店舗の延べ床面積
- 保険金額の上限
- 割引の適用状況
保険料が分からないと不安を感じてしまいますが、販売代理店に問い合わせれば担当者がついて見積もりを詳しく計算してくれます。まずは気になるカスタマーハラスメント保険がないか調べたうえで、問い合わせしてみましょう。
カスタマーハラスメントに対応した保険8選
カスタマーハラスメント保険は、2019年ごろから主要な保険会社で提供され始めました。こちらでは、カスタマーハラスメントに対応した8つの保険商品について、特徴を紹介していきます。
- コモンBiz+(エール少額短期保険株式会社)
- カスタマーハラスメント保険(USEN INSURANCE)
- ビジサポ(日新火災海上保険株式会社)
- 超ビジネス保険(弁護士費用等補償特約)
- ビジネスマスター・プラス(損保ジャパン)
- クレームドクター(HAZS株式会社)
- クレーム対応費用保険(損保ジャパン)
- クレーム対応費用保険(東京医師歯科医師協同組合)
すでに利用中の事業者向け保険会社や、自社が属する業界から、気になるカスタマーハラスメント保険が販売されていないか確認してみてください。
1. コモンBiz+(エール少額短期保険株式会社)
エール少額短期保険株式会社の「コモンBiz+(プラス)」は、カスタマーハラスメント保険の元祖とも言える存在です。弁護士への「法律相談料」と「法務費用(事件委任の報酬など)」の2つを補償し、企業の法的トラブルをサポートします。
さらに、以下のようなケースで弁護士に相談できるサービスが付帯されています。
- 悪質クレームなどのトラブル
- 取引先やお客様とのトラブル
- 契約書や内容証明郵便の確認
- 経営者の冤罪トラブル
- トラブル時の示談交渉
またコモンBizは、相場より安い金額で弁護士に相談でき、事案ごとにその分野を得意とする弁護士が選べることがメリットです。保険料は補償の大きさや企業規模に合わせて3つのプランがあり、月額11,800円から利用できます。
2. カスタマーハラスメント保険(USEN INSURANCE)
USEN INSURANCEは、店舗のIT支援や音楽配信事業を手がける「USEN」のグループ企業です。
「お店のあんしん保険」「ビジネスリスクGuard」という少額短期保険のいずれかに加入している企業に向け、オプションとしてカスタマーハラスメント保険を提供しています。
主なサポート内容は、次の3つです。
- クレーム相談窓口でカスタマーハラスメントについて無料相談できる
- 弁護士費用として1事故につき70万円までの補償を受けられる
- 日弁連リーガル・アクセス・センターを通じて弁護士の紹介を受けられる
保険会社から弁護士へ直接保険費用が渡る仕組みなので、70万円以下であれば企業側の支払いは発生しません。
3. ビジサポ(日新火災海上保険株式会社)
日新火災海上保険株式会社の事業者向け統合賠償責任保険「ビジサポ」では、保険商品内の特約としてて「クレーム等対応費用補償特約」を扱っています。
ビジサポのクレーム等対応費用補償特約で受けられる補償内容は、以下の通りです。
- 弁護士費用(1度の事故で10万円まで)
- 法律相談費用(1度の事故で10万円まで)
- 信頼回復広告の費用(1度の事故で20万円まで)
- 使用人への見舞費用(1度の事故で20万円まで)
アルバイト従業員による、いわゆる「バイトテロ」への補償も含んでいることが特徴です。
4. 超ビジネス保険(東京海上日動火災保険株式会社)
東京海上日動火災保険株式会社の「超ビジネス保険」では「弁護士費用等補償特約」を提供しています。本来事業者が抱えるリスクを包括的にフォローする保険商品でしたが、2019年から新たにカスタマーハラスメント発生時の法律相談費用の補償をスタートさせました。
補償を受けられる条件は「顧客による業務妨害等で経済的な被害を受けたこと」です。例えば、悪質な風評をSNSに書き込まれ拡散されてしまったり、理不尽な主張のクレームを繰り返されたりして被害を受けた際、1事故につき最大10万円が補償されます。
5. ビジネスマスター・プラス(損保ジャパン)
事業活動全般のリスクに備えた包括型保険「ビジネスマスター・プラス」にある、企業包括式というプランでは「クレーム等対応費用補償特約」を付けられます。
暴行やセクシャルハラスメントといった悪質行為を含むクレームについて弁護士を利用すると、1事故につき70万円が補償される仕組みです。大手保険会社の中では、補償上限が高額であることが特徴です。
カスタマーハラスメントの対応に困ったら、損保ジャパン設置した相談窓口で、無料のアドバイスを受けられることも大きな支えとなるでしょう。
6. クレームドクター(HAZS株式会社)
クレームドクターは、通販サービスやECサイトの運営会社に向けたカスタマーハラスメント保険です。
- チャットサービスでカスタマーハラスメントについて質問できる
- 損保ジャパンのクレーム対応費用保険に準じた補償を受けられる
- クレーム対策セミナーを受けられる
HAZS株式会社は、600社以上にクレーム対応のノウハウを提供した、カスタマーハラスメント対応のプロともいえる方が代表を努めている企業です。コールセンターや問い合わせフォームで、顧客の悪質な主張が目立ってお困りであれば、ぜひ利用を検討してみてください。
7. クレーム対応費用保険(損保ジャパン)
損保ジャパンではビジネスマスター・プラスの他に、介護・福祉事業者を専門とした「クレーム対応費用保険」を展開しています。近隣住民や利用者からの過大な要望への対応にいて、解決をサポートしてくれる保険です。
基本的な補償内容は、次の3つです。
- 専用窓口「クレームコンシェル」でカスタマーハラスメントの無料相談ができる
- 弁護士費用として1事故につき70万円の補償を受けられる
- 日弁連リーガル・アクセス・センターを通じて弁護士の紹介を受けられる
「利用者の行動が業務に支障をきたしている」「スタッフが利用者からのセクシャルハラスメントに悩んでいる」といったケースで「クレームコンシェル」を活用してみましょう。
介護現場におけるカスタマーハラスメントの実態については、関連記事「【保存版】介護現場のカスタマーハラスメント対策7選【相談先を3つ紹介】」にて詳しく紹介しています。介護事業者でカスタマーハラスメント問題について知りたい方はぜひ参考にしてみてください。
8. クレーム対応費用保険(東京医師歯科医師協同組合)
「クレーム対応費用保険」は開業医向けのカスタマーハラスメント保険で、東京医師歯科医師協同組合が運営しています。例えば補償の対象となるのは、顧客よる次のような行動です。
- 脅迫
- セクシャルハラスメント
- 不退去
- 暴行
- 偽計、風説の流布
このようなカスタマーハラスメントに困ったら、医師会の力を借りることも検討してみてください。
医療業界では、地域の医師会が有効な保険が提供されています。中でも東京医師歯科医師協同組合を含めたほとんどの組織が、損害保険ジャパン株式会社の保険制度を代理販売しています。
そのため所属する医師会は異なっても、東京医師歯科医師協同組合と同様の補償を受けられる可能性が高いです。
カスタマーハラスメント保険の加入時に確認する3つのポイント
カスタマーハラスメント保険に加入する際は、次の点を確認し契約の失敗を防ぎましょう。
- 掛け捨て型の保険であること
- 企業の目的に合った保険であるか
- 解約返納金には税金がかかること
不明点は保険会社に問い合わせし、不安をなくした状態で契約してくださいね。
1. 掛け捨て型の保険であること
掛け捨て型とは契約期間中に保険金の受領や特典の利用がなかったとしても、保険料が戻ってこない商品を指します。保険の契約期間中に、必ずカスタマーハラスメント被害が発生するとは限りません。
「保険料が払いっぱなしになるのでもったいない」と感じる方がいるでしょう。事業者向けの保険は、年額50万円などの費用がかかるケースがあります。カスタマーハラスメント被害に遭うリスクと支払う保険料を比較して、加入を検討することがおすすめです。
2. 企業の目的に合った保険であるか
カスタマーハラスメント保険の特約だけを見て「自社の目的に合わない保険商品を選んでしまった」と失敗しないよう、サービス全体の補償内容などをよく確かめてみてください。カスタマーハラスメント保険の多くは、企業向け総合型保険の特約として契約します。
せっかく保険料を払うので「カスタマーハラスメント保険が付帯されるから」という理由だけで、自社では補償を受ける機会がないであろう保険商品を契約するのは避けましょう。
3. 解約返納金には税金がかかること
解約返戻金とは、更新のタイミング以外で保険を途中解約した際に、保険会社から返ってくるお金のことを指します。仕訳では「雑収入」とされ、法人税の課税対象になることを認識しておきましょう。
正しく計上しなければ、脱税になってしまうので注意してください。解約返納金を受け取る際は、経理担当者などに帳簿付けについて共有しておくことが大切です。
保険に加入する以外にカスタマーハラスメントを対策する方法
保険に加入する以外にも、あらゆる角度からカスタマーハラスメントを対策しておくと安心です。こちらではカスタマーハラスメントの対策に有効な方法を紹介していきます。
- 従業員教育を徹底する
- マニュアルを作成する
- 社内の被害状況を把握する
- 防犯カメラを設置する
それぞれ詳しく見ていきましょう。
1. 従業員教育を徹底する
社内研修などで、従業員への教育を徹底しましょう。接客態度やサービスの質の低さが原因となるカスタマーハラスメントは、社内で統率の取れた行動を取ることで発生を最小限に減らせる可能性があるためです。
例えば立居振る舞いや言葉遣いといった、接客の基本スキルを社員に身につけてもらいましょう。顧客が理不尽なクレームをつける、きっかけをなくすことが大切です。カスタマーハラスメント発生のきっかけを減らすだけでなく、顧客からの印象アップにもつながります。
2. マニュアルを作成する
カスタマーハラスメントにどのような対応をすべきか、マニュアルで社内に周知することが大切です。社員が自分の判断で行動するのを避け、社内の対応方針を固められる効果があります。
上司に報告するまでのフローチャートや、悪質行為をする顧客への接し方などをマニュアルに掲載してください。万が一カスタマーハラスメントが発生しても、社員が冷静に対処できるよう読み込んでもらいましょう。
カスタマーハラスメント対応マニュアルの作り方については、関連記事「【5分で分かる】カスタマーハラスメント対応マニュアルの作り方【内容から運用のコツまで網羅】」で詳しく解説しています。まだ社内にカスタマーハラスメント用のマニュアルを準備できていなければ、ぜひ参考にしてみてください。
3. 社内の被害状況を把握する
カスタマーハラスメントを対策するために「被害を受けている事例はないか」社内の状況を把握してください。もしカスタマーハラスメント被害に遭った社員がいれば、発生時の状況や対応結果をヒアリングし、今後の対策に落とし込むのです。
発生してしまった原因や、適切な対応ができた事例は、社内で共有するのが良いでしょう。また人事部などで、カスタマーハラスメント被害を受けた社員のための相談窓口を設置すると、効率的に被害状況を把握できます。
4. 防犯カメラを設置する
防犯カメラの設置も、カスタマーハラスメントの対策につながります。「防犯カメラ設置中」という張り紙とともにカメラを設置することで、顧客の過剰な行動を抑制する牽制効果が期待できるためです。
例えば接客スペースなどに防犯カメラを設置すれば、万が一カスタマーハラスメントが発生した際の有力な証拠となるでしょう。「言った言わない」など取引上のトラブルを予防するためにも、防犯カメラを設置しておくのはおすすめです。
まとめ
保険に加入しておくと、カスタマーハラスメント対応時の弁護士費用を補償してもらえることがメリットです。補償金額や条件をよく確認し、自社に合った保険を探してみてください。
しかし一部の保険を除き、弁護士の紹介まではサポートしていません。カスタマーハラスメントに直面したら、自社で相談先の弁護士を探す必要があります。
どのような弁護士に相談すれば良いのか分からなければ「オンライン顧問弁護士」を活用するのがおすすめです。企業の顧問弁護士として、カスタマーハラスメントをはじめとしたあらゆる問題について、迅速な解決をサポートいたします。30分の無料体験も実施していますので、顧問弁護士の設置を検討する際はぜひご活用ください。