「取引先からの無理難題に悩んでいる」
「取引先に有効なカスタマーハラスメント対策はあるのか?」
「契約解除が怖くて、取引先に抗議できない」
取引先からの過剰な要求やクレームに、お悩みではないでしょうか。「カスタマーハラスメント」と呼ばれる問題は、顧客だけでなく取引先の企業からも発生しています。
「ビジネス上での関係だからこそ、対応できずにいる」というケースは少なくありません。カスタマーハラスメント問題を解決したいいものの、具体的にどう対処したらよいか分からないという方も多いのではないでしょうか。
そこでこの記事では、取引先からのカスタマーハラスメントに悩む事業者や企業担当者の方に向け、次の内容について解説していきます。
- 取引先によるカスタマーハラスメントの実態
- カスタマーハラスメントに関する国の指針
- 企業が取り組むべき具体的な対策
取引先によるカスタマーハラスメントは、日本政府も懸念を示している問題の1つです。企業として適切な措置を取りたい方には必見の内容となっておりますので、ぜひ最後までお読みください。
【事例3つあり】取引先によるカスタマーハラスメントの実態
顧客や取引先によるカスタマーハラスメントに対処するため、日本政府も動き始めています。厚生労働省らが実施した「職場のパワーハラスメントに関するヒアリング調査結果」では、取引先によるカスタマーハラスメントの実態が明らかになりました。
ここでは調査結果の内容を中心に、取引先によるカスタマーハラスメントの事例を3つご紹介します。
- 「短すぎる納期」などの無理難題
- 営業担当の社員に対する暴言
- 接待の場におけるセクシュアルハラスメント
取引先によるカスタマーハラスメントは、主に中小企業から多く報告されています。その背景には、発注元企業からの取引中止を恐れて、抗議などの適切な対処ができないという事情があるようです。
では、1つずつ見ていきましょう。
1. 「短すぎる納期」などの無理難題
取引先からの無理難題は、カスタマーハラスメントに該当します。厚労省らのヒアリング調査でも「取引先から契約の解除を盾に無理難題を要求された」ケースが報告されています。
常識の範囲を超えた値引き交渉も、カスタマーハラスメントの1つといえるでしょう。発注者という有利な立場を利用して、受注側が断りにくい要求をしているケースです。
取引先の無理難題に応えようとすると、業務量が大幅に増えたり他の業務に支障が出たりする恐れがあります。社員の長時間労働につながるなど、企業活動に悪影響を及ぼしかねません。
2. 営業担当の社員に対する暴言
相手の感情を傷つけ恐怖を与える暴言は、カスタマーハラスメントの代表例です。あまりに悪質な場合、名誉棄損罪や侮辱罪、恐喝罪といった罪に問われることがあります。
厚生労働省のヒアリング調査では「営業担当の社員が取引先から暴言を吐かれた」という事例が報告されています。「お前は仕事ができない奴だ」「お前のせいで契約解除になっても良いのか」など、取引先から威圧的なメールが送られてくることもあるようです。
若手社員や女性社員に対し、取引先の担当者が見下したような態度をとる事例もあります。「もっと上の役職じゃないと話にならない」「女じゃ役に立たない」といった差別的な言動は、カスタマーハラスメントに該当します。
3. 接待の場におけるセクシュアルハラスメント
セクシュアルハラスメントはあらゆる場面で問題となりますが、取引先との関係においても例外ではありません。たとえば、会食の場などで体を触ったり性的な発言をしたりするといったハラスメントが発生しています。
接待の場で起こるセクシュアルハラスメントは、被害を受けた社員も「仕事だから」と我慢してしまうことが少なくありません。企業としても、今後の契約に支障が出るとして問題を放置しがちです。
さらに、自社の女性社員に取引先の男性社員の隣に座るよう促したり、お酌をするように強要したりすることは、セクシュアルハラスメントを助長する行為であるといえます。自社の社員がハラスメント被害にあわないよう、接待する側の意識も大切です。
【厚労省発表】取引先のカスタマーハラスメントに対する指針
令和2年6月1日、厚生労働省は「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」を発表しました。労働施策総合推進法の改正に伴い定められたものです。
あくまで指針であるため法律上の義務は生じませんが、事業主が雇用管理上の配慮として取り組むことが望ましいとされる事項が明記されています。
- 相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
- 被害者への配慮のための取組
- 他の事業主が雇用する労働者等からのパワーハラスメントや顧客等からの著しい迷惑行為による被害を防止するための取組
引用元:厚生労働省|事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針
取引先からのカスタマーハラスメントに有効!企業が取り組むべき5つの対策
取引先は対等な仕事のパートナーであり、お互いを尊重しなければなりません。取引先によるカスタマーハラスメントを放置すれば、社員が疲弊し事業が停滞するなど、双方の企業にとって大きなダメージとなります。
取引先のカスタマーハラスメントを防止し適切に対処していくためには、会社をあげて対策に努めることが重要です。ここでは、事業者の方にぜひ取り組んでいただきたい、以下の5つの対策を紹介します。
- 組織的なルールの整備
- 社員のメンタルヘルス対策
- ハラスメント対策の研修
- 業界・業種の連携と情報共有
- 法務部門、弁護士との連携
それでは、1つずつ解説していきます。
1. 組織的なルールの整備
取引先によるカスタマーハラスメントに対応するには、組織的なルールが必要です。統一したルールを定めずに部署や職場によって異なる対応をしてしまうと、取引先からの不信感を招く恐れがあります。
以下のようなルールを整備しておくと、取引先のカスタマーハラスメントに対する組織的な対処が可能になるでしょう。
- 社員向け相談窓口の設置
- 相談した社員に対する不利益扱いの禁止
- 被害を受けた社員の配置換え
- 問題のある取引先には複数人で対応
- 取引先への抗議方法の統一化
なお、社員が存在を知らなければ、ルールの効果は発揮されません。社内メールや掲示場などを活用しながら、定期的に周知・啓発していくことが重要です。
カスタマーハラスメント対策のガイドラインについては、関連記事「【解決策】カスタマーハラスメントに厚生労働省のガイドラインはあるのか?企業での作成法を紹介」でも紹介しています。詳しく知りたい方は、ぜひご覧ください。
2. 社員のメンタルヘルス対策
社員に大きなストレスを与える悪質なカスタマーハラスメントは、場合によっては人権侵害もなり得る重大な問題です。社員が心身の健康を損ねかねない状況であるもかかわらず、その状況を放置すれば、事業者は安全配慮義務違反の責任を問われる可能性もあります。
被害を受けた社員に対しては、カウンセリングを行い休養をとらせるなどのメンタルケアが必要です。社員の負担にならないよう勤務時間を調整するなど、日頃からカウンセリングを受けやすい環境を整えておくことも重要となります。
社員同士の情報共有や意見交換の場が、取引先のカスタマーハラスメント被害を防止する可能性があります。問題のある取引先や実際にあったハラスメント事例を共有しておくことで、あらかじめ上司と一緒に対応するといった対策が可能です。
3. ハラスメント対策の研修
最近では多くの企業で、職場内や顧客からのハラスメントに関する研修を実施するようになりました。しかし、取引先のカスタマーハラスメントを盛り込んだ研修を実施している企業は、まだ少ないのではないでしょうか。
取引先によるカスタマーハラスメントを未然に防ぐためには、社員の意識づけも大切です。被害の発生及び拡大を防止するためにマニュアルを作成し、社員に周知しておきましょう。
研修で扱うべきポイントは、次のとおりです。
- 取引先によるカスタマーハラスメントの初期対応
- 取引先とやり取りする上での注意点
- カスタマーハラスメントに関する刑法などの法律知識
1回の研修だけではなかなか知識が定着しないので、ハラスメント研修は定期的に開催しましょう。
4. 業界・業種の連携と情報共有
業種・業態等によって、カスタマーハラスメント被害の実態や必要な対応は異なります。業界・業態等の状況に応じた必要な取組を進めることも、被害の防止に当たっては効果的だといえるでしょう。
厚生労働省らが実施した「職場のパワーハラスメントに関するヒアリング調査結果」では、相談事案の集約や対応マニュアルの整備といった、業界単位での対策が報告されています。
5. 法務部門、弁護士との連携
企業がカスタマーハラスメントを防止するためには、法律をはじめ、ハラスメントに関する知識を広めることが大切です。法務部門と連携することで、信頼性のあるガイドラインやマニュアルの作成につながります。
カスタマーハラスメント被害を取引先に申し入れる際にも、法務部門のサポートが重要です。法律の観点から客観的に被害内容を説明し、先方に適切な対処を要請できます。
さらに、弁護士と連携することで、より専門的な意見を仰ぐことが可能になります。法律知識を持った弁護士のバックアップがあれば、取引先に改善要請を行う際も安心です。安全配慮義務など、自社の社員に対する適切な措置についても相談に乗ってくれるでしょう。
カスタマーハラスメントを行った取引先の責任
2020年に改正された労働施策総合推進法では、パワーハラスメント防止措置が事業主の義務となりました。雇用する労働者に対し「他の労働者に対する言動に注意を払い必要な配慮を行う」ことが、事業主の責務とされています。なお「他の労働者」には、取引先等の他の事業主が雇用する労働者も含まれます。
ハラスメントを未然に防ぐ取組や、発生してしまった場合の対応も必要不可欠です。厚生労働省が作成したリーフレットでは、取引先等に対する言動に関し行うことが望ましい2つの取組が明示されています。
- 職場におけるパワハラを行ってはならない旨の方針の明確化等を行う際に、他の事業主が雇用する労働者、就職活動中の学生等の求職者、労働者以外の者(個人事業主などのフリーランス、インターンシップを行う者、教育実習生等)に対しても同様の方針を併せて示すこと
- 雇用管理上の措置全体も参考にしつつ、適切な相談対応等に努めること
引用元:厚生労働省|リーフレット(詳細版)「2020年(令和2年)6月1日から、職場におけるハラスメント防止対策が強化されました!」
「雇用管理上の措置」には、ハラスメント行為者や被害者に対する適正な措置等が含まれます。取引相手からカスタマーハラスメントに関する抗議を受けた場合、担当社員を外すといった対応のほか、再発防止に係る取組にも協力しなければなりません。
【注意】取引先へのカスタマーハラスメントで加害者になることも
取引先に対してカスタマーハラスメントの加害者となってしまった場合、企業は信頼を失い、大きな経済的ダメージにもつながります。事前の対策を徹底し、発生してしまった場合にも適切な対応がとれるよう準備しておきましょう。
取引先からカスタマーハラスメントに対する抗議があった場合は、事実確認や再発防止のための措置に協力することが求められます。自社の社員に対しては、担当業務の変更や、場合によっては懲戒処分などを検討しなければなりません。
研修によってカスタマーハラスメントに対する社員の理解を深め、加害者とならないよう指導することが1つの対策となるでしょう。就業規則等で、ハラスメント行為を確認した際の処分についても、明確化しておくことをおすすめします。
まとめ
取引先によるカスタマーハラスメントは決して珍しいことではなく、中小企業をはじめとする多くの企業が悩んでいる問題です。取引先にもカスタマーハラスメントに適切に対処する義務があり、労働施策総合推進法という法律で規定されています。
社員が働きやすい環境を守り、取引先と円滑なビジネス関係を継続していくためには、カスタマーハラスメントに対応するための体制づくりが重要です。
「オンライン顧問弁護士」に顧問を依頼すれば、法務部門の強化につながるほか、取引先と交渉する際も安心です。
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