「自社の事例はカスタマーハラスメントに当てはまるのだろうか」
「クレームとカスハラの違いはどこなのか」
「自社の事例がカスハラである場合、対処法はどうしたらいいのか?」
とお悩みではないでしょうか。
カスハラは明確な定義がないため、どのように対応したら良いのか難しいのが現状です。しかし、企業の成長に繋がるような正当なクレームとは違い、カスハラは従業員の心身に多大な影響を及ぼします。そのため、企業は毅然とした対応をすることが求められます。
この記事では、カスハラに関する以下の内容について解説していきます。
- カスハラの定義と増加の背景
- カスハラの具体的事例
- カスハラと一般のクレームの違い
- カスハラで訴えられた裁判例
- カスハラの対策方法
この記事を読めば、御社で発生しているケースがカスハラなのか判断できるようになるとともに、具体的な対策についても理解できますので、ぜひ最後までご覧ください。
カスタマーハラスメントとは?カスハラ事例が増加している背景を解説
「カスタマーハラスメント」を直訳すると、顧客(カスタマー)に対するいやがらせ(ハラスメント)となり、「カスハラ」と略されています。
例えば、料理が熱すぎてヤケドしたからといって法外な慰謝料を要求したり、従業員に無理やり土下座をさせSNSで拡散したりするような、不当な理由による理不尽な要求や営業妨害を指します。
カスハラが増えた背景には、一般消費者の「顧客至上主義」によるサービス過剰が当然という風潮があります。
カスタマーハラスメントの意味について詳しく知りたい方は、こちらの「【徹底解説】カスタマーハラスメントの意味と企業がとるべき対策7選【相談先紹介あり】」をご覧ください。
以下では、カスハラの定義と増加している背景を詳しく解説していきます。
1. カスタマーハラスメントの定義
カスタマーハラスメントを定義する要素は以下のとおりです。
- 職場において又は業務に関して行われる
- 優越的な関係を背景とした顧客や取引先が行う
- 業務上又は社会通念上相当の範囲を超えて行われる
- 担当者の就業環境や業務推進を阻害している
- 担当者の尊厳を傷つける行為である
このようにカスハラは、不法行為に近い悪質な行為であると考えられます。しかし、カスタマーハラスメントの定義は厚生労働省でもまだ正確には決まっておりません。
今後は厚生労働省の事業として、企業や労働者がカスタマーハラスメントに対処するためのマニュアルを、令和3年度中を目処に作成する予定です。
2. カスハラ事例が増加している背景
以前からモンスタークレーマーという言葉はありましたが、カスハラと呼ばれるほど事例が増加しています。その背景としては、以下のようなことが言われています。
- 「お客様は神様」という言葉が曲解され、顧客至上主義が蔓延している
- 格差社会やストレス社会により不満のはけ口として使われている
- サービス過剰が一般化しており、顧客が望むサービスと実際のサービスに差ができている
- SNSの発達により他の会社との比較が容易となり、商品やサービスに対する要求レベルが上がった
上記の理由でカスハラが増加しており、従業員の負担は更に増大しています。そのため、企業側のカスハラ対応は急務となっています。
4種類のカスハラ事例を具体的に紹介
カスハラには、大きく分けて4種類に分類されます。
- 顧客としての立場を濫用する
- 不当・過剰・法外な要求や対応の強要
- 職務妨害行為
- 担当者の尊厳を傷つける行為
これらに当てはまる事例の中には、刑法における犯罪行為の可能性もあるため法的手段に出ることも可能です。しかし、実際は犯罪行為と明確に認定されるわけではないため、不用意な対応をすると企業側が逆に訴えられる場合もあるため、慎重な対応が必要です。
カスタマーハラスメントの判例については、【判例あり】カスタマーハラスメントで裁判できるのか?該当する違法行為を5つ紹介をご覧ください。
1. 顧客としての立場の濫用(らんよう)
優越的立場にいる顧客として、従業員の身体や会社に対して脅すことです。具体的には以下の事例です。
- 店内でもう少し静かにしてもらえるようにお願いすると「何?帰れってこと、こっちは金払って来てやっている客なんだけど、お前何様だよ」と大声をあげた
- 時計の不良品で修理受付に納得いかず店舗で謝罪し、次の日自宅まで来て謝罪しろとなり、4日間深夜まで謝罪させられ、「誠意を見せろ!」と言われた
また「不買運動を起こす」「ネットで炎上させる」など社会的名誉に対して脅し、難癖付けて値引きを要求したり「客の言うことを信用できないのか」と質問を遮断たりする行為も、顧客としての立場を濫用(らんよう)していると考えられます。
2. 不当・過剰・法外な要求や対応の強要
商品やサービスに対する一般のクレームの範囲を超える、不当な要求を行うことです。
- 10年以上前の商品注文について不備を指摘し、それに伴い慰謝料と新たな商品の要求された
- 自分の不注意で壊したメガネを店舗のせいにして、仕事に行けない分の給与補償を要求された
- 煙席で煙草を吸う客に注意したところ、店が悪いと言い掛かりをつけ、入れ墨を見せつけ大声を出し威嚇をしてきた
また、暴行・傷害、強要・恐喝・脅迫などの不法行為となる行動もカスハラとみなします。
3. 職務妨害行為
クレーム対応などにより、通常の業務ができないほどの妨害行為を行うことです。
長時間に渡って担当者の拘束したり、その場で解決できない事象への即時対応要求したり、文書で反省文を提出するよう要求したりするのも職務妨害行為にあたります。
- 商品不備でのクレームであったが、先方自宅玄関に拘束、連日の電話、誠意の提示等、業務に支障をきたす程であった
- 都道府県の要請に基づくアルコールの提供時間を伝えるも理解してもらえず、閉店までクレームを受けた
また、業務中に大声を出したり、集団で押しかけたりするなどの営業妨害を行う行為や、業務上必要な機器等を破損させる行為も含まれます。
4. 担当者の尊厳を傷つける行為
クレーム対応をしている担当者に対しる人格・尊厳を傷つけるような行為です。担当者に対する暴言や土下座を要求する行為に加えて、個人情報の拡散を示唆するなどの脅しも含まれます。例えば、以下のような事例です。
- レジの接客態度が悪いと胸ぐらを掴まれ15mくらい引きずられた
- ホームセンターでは扱いがない商品と知りながら質問し、即答できないと怒鳴りつけ「お前はバカだ!」と何度も言われた
また、職場や通勤経路、自宅での待ち伏せなど恐怖を与える行為や、必要のない連絡先・個人情報などの開示要求も該当します。例えば、以下のような事例です。
- 繰り返し連絡先を聞いてきたり、電話してくる時はお店からでなく自分の携帯からかけろと強要された
- 酔ってマスクを外しているいるお客様から「マスクを取って謝れ」と至近距離で大声を要求された。
さらにこの場合、企業側が適切にカスハラ対策をしなかったとして、従業員から訴えられる事例もあるので、十分に注意が必要です。
正当なクレームとカスハラの違いを解説
「クレーム(claim)」とはもともと、補償金などの支払いを(当然の権利として)主張するという意味ですが、日本語では主に商品やサービスに対する不満や苦情として用いられています。
正当なクレームとの違いは、その行為が「業務上必要かつ相当な範囲を超えたか」です。具体的には、以下の2点が論点となっています。
- 顧客等の行為が会社の商品やサービスの問題、会社の落ち度などを伝えるために必要か
- その態様が苦情を伝えるための方法として相当な範囲か
企業側の明らかな過失や説明不足、接客サービスのミスなどについては、これらのクレームは真摯に受ける必要があります。しかし、上記ような社会的常識の範囲を超えていればカスハラと考えられます。
企業がカスハラ被害者から損害賠償請求の訴訟を起こされた事例
学校がカスハラへの対応を誤ったため、教職員から損害賠償請求された事例があります。(甲府地判平成30年11月13日)
2020年4月10日の労働新聞社の記事によると、内容は以下の通りです。
小学校の教師が生徒の自宅を訪問した際、生徒宅の飼い犬に噛まれて全治2週間の傷害を負いました。その後、教師は小学校の校長が同席の上、生徒の親に対して「治療費について保険をかけていないか」確認しています。
すると生徒の父親から「賠償しろとはどういうことだ」といった内容で、激しく責められました。さらに同席していた小学校の校長は、被害者である教師を守るどころか弁解を遮り、生徒の親への謝罪を強要しています。
教師はうつ病となり、学校側に対し損害賠償請求の訴えを起こしました。裁判の結果、教師の訴えが認められています。
裁判所は、「本件児童の父と祖父の理不尽な要求に対し、事実関係を冷静に判断して的確に対応することなく、その勢いに押され、専らその場を穏便に収めるために安易に行動したというほかない。」とカスハラに対する校長の対応を不法行為と認めました。
さらに「(教師に過度に謝罪させた)この行為は、原告に対し、職務上の優越性を背景とし、職務上の指導等として社会通念上許容される範囲を明らかに逸脱したものであり、原告の自尊心を傷つけ、多大な精神的苦痛を与えたものといわざるを得ない。」と判示しています。
この事例では、カスハラに対して適切な対応ができていないことは、従業員に対する損害賠償責任を問われる可能性があることを示しています。
カスハラ対策4選を紹介
カスハラはその場しのぎで対応すると、被害が拡大する可能性があります。ここでは、カスハラの対策法を4つ紹介します。
- 通常のクレームとカスハラとの違いを明確にする
- カスハラ知識のある責任者に引き継ぐ
- 対応時の証拠を残す
- 専門機関に相談する
それでは、詳しく解説していきましょう。
1. 通常のクレームとカスハラとの違いを明確にする
カスハラ対策の第一歩として、通常のクレームとカスハラとの違いに対する、社内での統一見解を出す事が重要です。
仮に正当なクレームをカスハラ扱いしてしまえば、顧客に大きな不快感を与えるとともに企業のイメージダウンに繋がるでしょう。統一したカスハラ行為を社員で認識すれば、従業員側が迷うことがなくなります。
社内のマニュアルを整備するなどして、クレームとカスハラの違いを明確にしておくのがおすすめです。
2. カスハラ知識のある責任者に引き継ぐ
実際のカスハラ対応は人によって異なるため、全ての従業員に適切な対応を求めるのは難しいのが現実です。
最初は問題ない一般クレームであっても、対応の不手際でカスハラに発展するケースも少なくありません。カスハラの対応に慣れた責任者やカスハラ対策チームに引き継ぐことをおすすめします。
担当者が対応事例を蓄積していれば、より適切な対応を取れるでしょう。悪質なクレームであれば法的な対応も検討できます。
3. 対応時の証拠を残す
悪質なカスハラに対しては、裁判なども視野に入れて対応時の証拠を残しましょう。具体的には、音声の録音や録画などを行なったり、対応履歴を細かく残したりすることです。
カスハラ行為をする方は、記録が残ることを嫌がります。丁寧に録音等をお願いすることで、相手側が引き下がるケースもあります。相手や言い方によっては更に悪化する場合もあるので、対応マニュアルにあらかじめ記載しておきましょう。
また、カスハラへの対応履歴を社員で共有することで、今後の対策にも役に立つでしょう。
4. 専門機関に相談する
誹謗中傷や金銭の要求などカスハラが悪質な場合には、各専門家に相談してみましょう。
「中小企業下請かけこみ寺」では、基本的に企業間取引の相談ですが、顧客のトラブルに対しても無料相談を行なっています。また、無料で弁護士との相談も可能です。
不法行為がエスカレートしている場合には、警察相談専用電話「♯9110」へかけて警察へ相談しておきましょう。ただし民事上のトラブルに対しては、警察は介入ができません。
不法行為に対する提訴や防止策を法律的に検討する場合は、弁護士への相談が適切です。カスハラ対策に長けた弁護士であれば適切な対応や、法的な手続きにも対応できます。
「オンライン顧問弁護士」であれば、カスハラ対策に強い法律事務所が全国どこでもオンラインにて相談可能です。現在は30分無料相談を行っていますので、お気軽にお問い合わせください。
まとめ
一般のクレームと違って強いカスハラを受けると、対応した従業員の心と身体が壊れてしまうリスクがあります。そのため、時には企業が毅然とした態度で対応することは、従業員を守る上で重要です。
今まさにカスハラ対策で悩んでいるのでしたら、Zoomで気軽に相談できる「オンライン顧問弁護士」のご利用をご検討ください。カスハラ対応に慣れた弁護士が、御社の状況を真摯にお伺し、適切な法的措置や対応を行うことが可能です。
カスハラ対策には、法律の理解が重要となります。企業と従業員を守るために、専門家を適切に活用するのも有効な手段の1つです。