法定利率改正とは?①の続きとなります。
①と本記事を合わせることで、より法定利率改正について理解を深めることができます。
それでは、早速見ていきましょう。
改正ポイント③:法定利率変動制の導入
法定利率変動制とは?
「法定利率変動制」とは、「法定利率が、3年ごとに、法令の基準に従って見直され、変動する可能性がある制度」のことをいいます。
これまでは、法定利率は約120年間利率が変わらない固定制が取られてきましたが、市場動向の変化への対応等を踏まえて、変動制が導入されました。
法定利率変動制のポイント
法定利率変動制の内容を正確に理解するのは、非常に難しいです。
下記の要点をかいつまんで理解していただければ十分です。
変動時期:法定利率の見直しは、3年に1回。
➡次回の法定利率見直しのタイミングは、2023年(令和5年)です。
変動幅:法定利率の見直しが行われるのは、上下1%単位。
➡法定利率に、小数点以下の端数が出ることはありません。
変動し易さ:比較的変動しにくい定めになっています。
➡次期見直しの2023年に、実際に法定利率が変動される可能性は、高くはありません。
条文の変更点をチェック
非常にわかりにくい条文なので、正直に言って読む必要はないですが、念のため条文の変更点をチェックしておきましょう。
<旧民法>
第404条(法定利率)
利息を生ずべき債権について別段の意思表示がないときは、その利率は、年五分とする。
<改正民法>
第404条(法定利率)
1~2(略)
3. 前項の規定にかかわらず、法定利率は、法務省令で定めるところにより、三年を一期とし、一期ごとに、次項の規定により変動するものとする。
4.各期における法定利率は、この項の規定により法定利率に変動があった期のうち直近のもの(以下この項において「直近変動期」という。)における基準割合と当期における基準割合との差に相当する割合(その割合に一パーセント未満の端数があるときは、これを切り捨てる。)を直近変動期における法定利率に加算し、又は減算した割合とする。
5.前項に規定する「基準割合」とは、法務省令で定めるところにより、各期の初日の属する年の六年前の年の一月から前々年の十二月までの各月における短期貸付けの平均利率(当該各月において銀行が新たに行った貸付け(貸付期間が一年未満のものに限る。)に係る利率の平均をいう。)の合計を六十で除して計算した割合(その割合に〇・一パーセント未満の端数があるときは、これを切り捨てる。)として法務大臣が告示するものをいう。
改正ポイント④:改正法の適用の基準日
基準日とは?
2020年4月1日以降はどんな場合でも一律3%?
今までの話で、“民法改正で、法定利率は当面の間、年利3%になる。”ということはご理解いただけたと思います。
では、いつから「改正前の一般法定利率年利5%(商事法定利率は年利6%)ではなく、「改正後の法定利率3%」が適用されるのでしょうか?
実は、「改正民法404条の施行日である2020年4月1日からすべての債務に一律に年利3%が適用される」という訳ではないのです。
これが法律の適用の「基準日」のお話です。
基準日とは?
基準日」とは、個別具体的事案において、どの法令が適用されるかの基準になる日のことをいいます。
具体的に基準日のポイントを説明すると、以下のとおりです。
基準日のポイント
基準日が2020年3月31日以前の場合「改正前の一般法定利率年利5%(商事法定利率は年利6%)」が適用されます。
基準日が2020年4月1日以降の場合、「改正後の法定利率年利3%」が適用されます。
このように2020年4月1日の改正民法施行日の後であっても、基準日に依っては、昔の法律が適用される場合もあるのです。改正民法施行日(2020年4月1日)を跨ぐ取引では特に注意しなければなりません!個々の事案において基準日がどのように決定されるかについては、場合によって変わります。
次の(2)~(3)で詳しくお話ししますが、少し難しい話になるので、読み飛ばしていただいても構いません。
また、基準日に不安があるのであれば、弁護士に相談するとよいでしょう。
基準日のルール①:利息の場合
利息とは?
「利息」とは、「金銭等に対して利率に応じて支払われる対価」のことをいいます。
具体的には、銀行預金や消費貸借契約のときに決める利子や利息を考えてもらえばイメージしやすいと思います。
利息の基準日=「その利息が生じた最初の時点」
利息の基準日は、「その利息が生じた最初の時点」です。具体的に言うと、利息を支払う旨の契約をした日(先程のコラムでいう「1段階目」の合意をした日)です。商法513条が適用される場合では、お金を貸し付けた日や金銭を立て替えた日になります。
条文をチェック
条文を念のため確認しましょう。
<改正民法>
第404条(法定利率)
利息を生ずべき債権について別段の意思表示がないときは、その利率は、その利息が生じた最初の時点における法定利率による。
2~5(略)
基準日のルール②:遅延損害金の場合
弁護士としてコネコネ検討すると、悪意の受益者に対する不当利得返還請求(民法704条)などの場面でも問題になりそうな気がします。実務への影響は……過払金とか?//注釈レベルでも書かなくていい情報ですね。
遅延損害金とは?
「遅延損害金」とは、「債務者が期限までに債務を履行せず支払いが遅延したことに関して、債権者に対する損害賠償として支払わなければならない金銭のこと」をいいます。
具体例を見てみましょう。先ほども見たケース1です。
ケース1 売買契約の代金が支払われない場合
<問題>
あなたは、Aさんに対して、工作機1台を100万円で売る売買契約を結びました。あなたは、Aさんに対して、期限どおりに、工作機1台を納入しました。
しかし、Aさんは、期限になっても、代金100万円を支払ってくれません。あなたは、見積書と発注書だけで取引してしまったので、契約書は作っていません。
あなたは、Aさんに対して、代金100万円のほかに、いくらか請求できるのでしょうか?
<回答>
あなたは、Aさんに対して、代金100万円のほかに、支払いが遅れた日数に「法定利率」を乗じて計算した利息【☚これが「遅延損害金」】も併せて請求することができます。
この「遅延損害金」は、ケース1のように取引をしている場面ではなくても発生します。
例えば、交通事故などの場面です。ケース2を見てみましょう。
ケース2 物損事故の場合
<問題>
あなたは、駐車場で、自動車の運転ミスをして、Bさんの車にぶつかってしまいました。Bさんの車のドアには傷がついてしまいました。
Bさんは、事故後、ドアの傷について、工場に修理代10万円で依頼し、修理しました。あなたは、Bさんに対して、修理代10万円のほかに、いくらか支払わないといけないのでしょうか?
<回答>
交通事故について基本的には事故があった日を支払期限として、損害賠償金を支払わなければなりません。そのため、あなたは、Bさんに対して、修理代10万円のほかに、事故があった日から修理代を弁償した日までの間の日数に「法定利率」を乗じて計算した利息【☚これが「遅延損害金」】も併せて支払わなければなりません。
上記ケース1、ケース2の場合も、「期限までに債務を履行せず支払いが遅延」していることが分かります。そのため、遅れた分は、“遅れたという損害”を賠償するために、遅延損害金を上乗せして支払わなければならないのです。
遅延損害金は、「基準日」における「法定利率」をもとにして計算されるということです。
遅延損害金の基準日=「債務者が遅滞の責任を負った最初の日」
遅延損害金に関する「基準日」について、法律は「債務者が遅滞の責任を負った最初の日」と定めています。
条文をチェック
<改正民法>
第419条 (金銭債務の特則)
金銭の給付を目的とする債務の不履行については、その損害賠償の額は、債務者が遅滞の責任を負った最初の時点における法定利率によって定める。ただし、約定利率が法定利率を超えるときは、約定利率による。
2~3 (略)
「債務者が遅滞の責任を負った最初の日」とは?
「債務者が遅滞の責任を負った最初の日」は、債務の種類によって、違ってきます。
1.確定日により期限を定めた債務の場合=「確定期限の日」
確定日により期限を定めた債務については、その確定日が経過したときが基準日になります。
具体的には、ケース1で、確定期限として「代金100万円は2020年5月1日までに支払う。」という約束をしていた場合は、基準日が改正日2020年4月1日よりあとですから、「改正後の法定利率年利3%」が適用されます。
2.特に期限を定めなかった債務の場合=「履行の請求を受けた日」
特に支払の期限を定めなかった債務については、債務者が履行の請求を受けた日が経過したときが基準日になります。
「履行の請求を受けた日」とは、簡単にいうと、「支払え!」という連絡が債務者に伝わった日のことです。電話で請求すれば電話がつながった日、手紙で請求すれば手紙が相手に届いた日です(手紙を発送した日ではないので注意が必要です。(民法97条1項))。
具体的には、ケース1で、明確に支払期限を決めていなかった場合は、「代金100万円を支払ってよ。」という催促をした日が経過したときが基準日になります。
基準日のルール③:中間利息控除の場合
中間利息控除とは?
「中間利息控除」とは、「将来支払われるはずの金銭を現時点で前払いする場合に、現時点から将来の支払予定日までに発生する利息分を差し引いて支払うこと」をいいます。
この説明だけではどのような時に問題になるのか分からないと思いますので、具体例を見てみましょう。
ケース3 人損事故の場合
<問題>
あなたは、自動車の運転ミス(過失割合10対0)をして、会社員Cさん(37歳)に衝突してしまい、残念ながらCさんは亡くなってしまいました。
人を死亡させてしまった場合、被害者が事故で亡くならなければ原則67歳まで就労可能であったと仮定して生命侵害に対する損害賠償金(いわゆる「逸失利益」)を計算することになっています。
Cさんが37歳から67歳までの30年間に稼げる総賃金からCさんが消費するはずだった生活費などをもろもろ差し引いた逸失利益が1億万円だった場合、あなたはCさんに対して逸失利益1億円全額を支払わなくてはならないのでしょうか。
<回答>
逸失利益1億円に対して「中間利息控除」をした金額(法定利率年利3%の場合約6533万円、法定利率年利5%の場合約5124万円)を支払えば大丈夫です。
なぜ上記回答のようになるのでしょうか。それは、以下のような理由からです。
Cさんは、将来長い時間をかけて1億円分を稼いでいきます。
その将来長い時間をかけて稼ぐお金相当の額を現時点で支払う場合は、「将来支払われるはずの金銭を現時点で前払いする場合に、現時点から将来の支払予定日までに発生する利息分を差し引いて支払うこと」すなわち「中間利息控除」をするのが公平です。(大雑把に説明すると現在受け取った約6533万円の現金を適切に運用すれば、本来の支払予定である30年の間には1億円まで利殖で増えているだろうというイメージです。)。
このように、将来支払われるはずの金銭を現時点で前払いする場合、前倒しする期間分だけ割り引いて支払われてしまうのです。これが中間利息控除です。
中間利息控除の基準日=「その損害賠償の請求権が生じた時点」
中間利息控除の基準日のルールは、簡単です。
中間利息控除の基準日のポイント
※ただし、法定利率変動制による見直しの可能性がある2023年4月1日以前の場合
- 不法行為日(事故の発生日)が2020年3月31日以前の場合、「改正後の法定利率年利3%」が適用されます。
- 不法行為日(事故の発生日)が2020年4月1日以降の場合「改正後の法定利率年利3%」が適用されます。た場合は、「改正前の一般法定利率年利5%」が適用されます。
つまり、基本的には、不法行為日(事故の発生日)が、2020年4月1日の前か後かで決まります。
※死亡にかかる逸失利益の場合、後遺障害にかかる逸失利益の場合の別を問いません。症状固定時期は考慮されず一律に事故時点で判断されます(民法(債権関係)の改正に関する要綱案の取りまとめに向けた検討(17))
民法改正附則第17条第2項「新法第四百十七条の二(新法第七百二十二条第一項において準用する場合を含む。)の規定は、施行日前に生じた将来において取得すべき利益又は負担すべき費用についての損害賠償請求権については、適用しない。」
条文をチェック
<改正民法>
第417条の2 (中間利息の控除)
将来において取得すべき利益についての損害賠償の額を定める場合において、その利益を取得すべき時までの利息相当額を控除するときは、その損害賠償の請求権が生じた時点における法定利率により、これをする。
将来において負担すべき費用についての損害賠償の額を定める場合において、その費用を負担すべき時までの利息相当額を控除するときも、前項と同様とする。
正直に言って、中間利息控除の問題が生じる場面になったら、まず間違いなく弁護士に相談なさった方がいい局面ですので、一般の方は内容を全部理解できなくても全く問題ありません。
ですが、中間利息控除については、旧民法下では判例法理のみが存在するだけで条文すらなかったところ、民法改正で条文が新設された大きな変更点ですので、念のため説明しました。
基準日のルール③:基準日以降に利率が変動した場合でも、基準日に確定した利率がそのまま適用!
改正民法では、法定利率変動制が採用されたことは既に説明しました。
つまり、改正民法下では、法定利率は3年ごとに見直される可能性があるのです。
しかしながら、基準日以降に利率が変動した場合でも、基準日に確定した利率がそのまま適用されます!
逆に言うと、基準日によって適用される法定利率が確定しまったらその後にいくら法定利率が変動してもその変動は基本的には考慮されないということです。
まとめ -実は大事な「基準日」
以上をまとめますと、契約によって決めた支払期限や請求した日が一日ずれるだけでも、適用される法定利率が変わってしまう可能性があるということです。
今後は、法定利率変動制が取られますので、なにも改正前後に限った問題ではありません。
数%利率が変わるだけでも請求額が大きく変わる場合があります(ケース3の事例では、約1400万円も請求できる金額が違ってきています。)。改正を機に契約書の内容や請求管理について見直すとよいでしょう。
改正による実務への影響
ここまで、法定利率に関連する民法等の改正内容について見てきました。では、実際に改正にともなって実務にはどのような影響が生じるのでしょうか。
実務への影響①:法定利率の減少 ➡ 遅延損害金の減少の問題
これまで見たとおり、民法改正によって法定利率が年利5%(商事6%)から年利3%に低くなりました。
つまり、「遅延損害金」についての「約定利率」の定めがない場合、単純に年利2%(商事3%)分、請求できる金額が少なくなってしまいました。
実務への影響②:法定利率変動制 ➡ 債権管理コストの増大の問題
これまで見たとおり、法定利率変動制が採用され法定利率が3年ごとに見直しされる可能性が生じました。
また、基準日に依って適用される法定利率が違ってくることになりました。
つまり、“いつ請求するか”、“いつを支払期限とするのか”の違いによって、請求できる金額がバラバラになってしまうという問題が生じることになりました。
これにより、「約定利率」の定めがない場合、企業内部で法定利率変動期を踏まえて請求時期や債権の評価額を管理する債権管理のコストが増大することになりました。
実務への影響まとめ:法定利率に関する改正➡約定利率の重大性が増します!
契約書を作らず取引している会社は、約定利率を定めた契約書の作成を!
法定利率に関する改正により、上記のような問題が生じることがわかりました。この問題の解決策は、約定利率の記載のある契約書を作成することです。というのも、契約書できちんと確定利率の約定利率を定めている場合には、法定利率に関する民法改正は影響を受けません。
契約書を作っているor作ろうとしている会社は、契約書の内容が不利な内容になっていないか確認を!
「うちの会社は契約書を作っているから大丈夫。」と思っていても、契約書の内容が想定外に不利な内容になってしまう場合はよくあります。
例えば、あなたが売買契約の売主である場合、「約定利率」を定める下記契約条項は、有利な条項といえるでしょうか?
<売買契約書 サンプル>
第X条(遅延損害金)
本売買契約に関連し発生した債務の支払を遅延した場合、当該債務者は相手方に対し、債務の履行期から支払済みに至るまで、年14.6%(年365日日割計算)の割合による遅延損害金を支払うものとする。
答えは、NOです。この契約条項は、売主に有利に使われることも不利に使われることもあります。
有利な点としては、売主であるあなたは、売買代金の支払いが遅延した場合に売買代金の遅延損害金として年14.6%の利息を上乗せで請求することができます。
不利な点としては、この契約条項があることで、「商品(売買目的物」の納品が遅れた場合」や、「商品に欠陥があった場合」に請求される損害賠償金に関しても同様に年14.6%の利息を上乗せで支払わなくてはならなくなるのです。例えば、あなたが重要な部品を納期までに納品できなかったことで、買主である製造メーカーの商品リリースまでに製品開発が間に合わなくなり、あなたが極めて高額の損害賠償義務を負うことになった場合などにおいても、その損害賠償金に加えて年14.6%の利息を上乗せで請求されてしまうのです。
以上のとおり、一見有利に見える条項も、適用される場面や契約書の他の条項との関係で不利になってしまうこともよくありますが、この見極めは容易なものではありません。