目次
平均的な審理期間
なぜ時間が掛かるのか
1. 起訴の提訴
2. 第1回期日
3. 第2回期日以降~判決
最後に
トラブルに巻き込まれた相談者の方からは、もし裁判になったらどれぐらいの時間が掛かるのかというご質問を受けることがよくあります。トラブルを裁判外で収めてしまうか、それとも裁判で徹底的に争って解決するのかという判断には、金銭面だけではなく、時間的なコストも理解しておくことが必要です。そこで今回は、裁判にはどれぐらいの時間がかかるのかということをご説明したいと思います。
訴訟における平均的な審理期間
まず、最高裁判所の司法統計によると、令和2年度の通常訴訟事件の平均審理期間は、和解等により終了した事件も含めると9.9ヶ月、判決まで双方が争った事件については13.9ヶ月とされています。1年掛かることも珍しくないということには、驚かれる方も多いのではないでしょうか。しかも、これは地方裁判所での第一審のみの統計ですので、控訴や上告がなされた場合には更に期間を要していることになります。
なぜ裁判には時間が掛かるのか
民事訴訟は、なぜこれだけの時間が掛かってしまうのでしょうか。勿論、訴訟の中身が複雑であり、当事者の主張や裁判所の判断に時間を要するというのが大きな理由の1つです。また、民事訴訟が逐一時間を掛けることが前提の手続になっているという点にも原因があるものと考えられます。これらの点は、民事訴訟の流れを確認しながらご説明するのが分かりやすいと思いますので、順に見て行きたいと思います。なお、以下は第一審の流れであり、更に控訴審、上告審と手続が移行していく場合もあります。
1. 起訴の提訴
訴訟手続は、まず原告が裁判所に訴状を提出することから始まります。裁判所は訴状を受理すると、被告とされている者に対して訴状を送達すると共に、第1回期日の日程を決め、当事者双方に裁判所への出頭を求めます。
第1回期日は裁判所の規則上、訴状の提出から1ヶ月ほどの日程が指定されることになっています。ただし、被告が訴状を受け取らない場合などには第1回期日までに2~3ヶ月ほどを要することもあります。
2. 第1回期日
第1回期日から本格的な争いが始まるのかというと、多くの場合そうではありません。
被告の側かすると、いきなり訴状が届いて驚いたところに、数週間後の期日に出席して反論しろということまでを求められるのは苦しいものがあります。弁護士に馴染みのない方にとっては、自らの代理人を探す時間もありません。そういった点を考慮して、被告には、ひとまず原告の請求を争うという書面(「形式的答弁書」といいます。)だけを出しておけば、第1回期日に限り欠席が認められることになっています。
結果として、第1回期日には原告側のみが出席することが非常に多くなっています。その場に被告がおらず、形式的答弁書しか出されていないという状況ですと、原告と裁判官で整理する話も殆どありません。次回期日の日程だけを決めて、5分も掛からずに終わるということも多々あります。
第2回期日の日程は、第1回期日から約1ヶ月後とされることが通常です。つまり原告側からすると、本格的な議論が始まるまでに最短でも2ヶ月ほど待たされるということが、民事訴訟の常識となっています。
3. 第2回期日以降~判決
第2回期日以降から、本格的な主張・反論が始まります。この期間がどれほど長くなるのかは、訴訟の難易度によるところが大きいでしょう。簡単な事案であれば2,3度の期日で終了することもありますが、複雑な事案ですと、反論に対する再反論、それに対する際再反論……と、期日を要することになります。ここでも,期日と期日の間は1ヶ月程になるのが通常です。裁判官は、当事者双方の主張や立証が終了したと認められる時点で審理を打ち切り、1~3ヶ月程度で判決を下すことになります。
裁判官からは、訴訟の途中で和解を提案されることもあります。和解できないから裁判になっているのではないか、と考える方もおられるかと思うのですが、裁判官からの和解提案は、「判決を下すとすればこのようになる」という見込みと共に示されます。和解の上手い裁判官は、原告・被告双方に「和解で早く終わることができるのなら、これぐらいの譲歩も仕方ない」と思わせる案を提示してくるのです。
最後に
冒頭のご質問を受けた場合、相談者の方には、早くとも1年、長くなれば2,3年掛かってもおかしくはないという説明をさせて頂くことになります。ビジネスの世界とは余りにもかけ離れる時間感覚となるため、驚かれることも多いのですが、裁判所で原告被告がお互いの意見を出し尽くすとなると、準備期間も含めて長期間を要することはやむを得ない面もあります。
ただ、最近では裁判所や法務省も民事訴訟の長さを問題視しているようであり、迅速化に向けた議論もなされているところです。当事者が希望すれば6ヶ月以内に審理を終わらせることのできる、新しい裁判手続きについても議論がなされていますが、反対意見もあり、正式に導入されるかどうかは不透明です。
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