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人事・労務 2021.03.02

【労働問題】遅刻・遅延を繰り返す従業員への対応策

よく経営者の方から従業員の遅刻・遅延について下記のような相談を受けます。

  • 度々、遅刻をしてくる従業員がいるので、辞めさせたい。
  • 特定の一部の従業員だけが電車遅延等を理由に遅刻してきて不公平感が出ている。どうしたらいいか。

以上のような問題については、一足飛びに懲戒解雇などをしてしまうと、かえって従業員から不当解雇として会社側が訴えられる恐れがあります。
他方で、放置してしまうと、取引先とのトラブル、社内全体のモチベーション・規範意識の低下など、大きな問題に発展しかねません。そこで、本稿では、遅刻・遅延に対する対処を解説します。

そもそも遅刻・遅延とは?

遅刻と遅延の区別 -帰責事由の有無

遅刻(帰責事由あり)に対する対処 -確認・指導・懲戒

  1. 遅刻に対する対処のフロー
  2. 事実確認
  3. 注意・指導
  4. 懲戒

遅延(帰責事由なし)に対する対処 -確認・勤怠控除処理等

  1. 遅延(帰責性のない遅刻)に対する対処のフロー
  2. 勤怠控除とは?
  3. 事実確認 -会社に帰責性がないか?
  4. 就業規則等の内容の確認

まとめ

そもそも遅刻・遅延とは?

遅刻とは、法律的に難しい言葉でいうと、「債務不履行」に当たります。
「債務不履行」とは、簡単に言うと「雇用契約」上の約束を破ったということです。

雇用契約では、一般的に“「所定労働時間」は始業時間午前9時から終業時間午後6時まで”などと定められていますよね。この「所定労働時間」が、雇用契約における労働時間の約束です。
遅刻は、約束した始業時間までに労働を開始できなかったということです。つまり、労働時間に関する雇用契約上の約束を破ったということであり、「債務不履行」に当たります。
債務不履行にあたると、損害賠償責任(民法415条)などを問うことも検討できる場合もあるのです。

遅刻と遅延の区別 -帰責事由の有無

先ほど、遅刻は、「債務不履行」に当たるといいました。
しかし、約束した始業時間までに労働を開始できなかったという場合であっても、
【1】従業員自身が寝坊して遅刻した場合
と、
【2】大雪で電車が遅延してしまってどうしても始業時間に間に合わなかった場合
の2つが同じに取り扱われるのはおかしいですよね。

法律上も、【1】寝坊と【2】大雪の場合は、区別して考えられています。
区別の基準は、「帰責事由」があるかどうかです。「帰責事由がある」とは、債務不履行に関して債務不履行者に責任や過失があることを意味します。

具体例をみると、以下のように区別できます。
【1】は、「従業員自身」が寝坊しています。そのため、従業員自身に遅刻の責任がある、つまり「帰責事由がある」といえます。
【2】は、大雪という「天災」によって「鉄道会社」が電車を時刻どおりに運行できなかったせいで従業員が遅刻しています。そのため、従業員自身に遅刻の責任はない、つまり、「帰責事由がない」といえます。
 従業員に帰責事由がある場合は、従業員自身の落ち度によって遅刻したのですから、遅刻に対して生じた損害や責任を負わせることも検討できます。つまり、業務指導や懲戒処分、さらにあまりにもひどい遅刻の場合は損害賠償などの措置をとりうる場合があるでしょう。
 一方で、従業員に帰責事由がない場合は、従業員自身の落ち度はなかったのですから、遅刻に対して生じた損害や責任を負わせることは、酷です。つまり、懲戒処分などはできないということになります。
以上の区別をきちんと理解して、それぞれ適切な対処をすることが重要です。

【1】遅刻(帰責事由のある場合)に対する対処 -確認・指導・懲戒

1.遅刻に対する対処のフロー

まず、最初に、遅刻をしてきた従業員に対する対処のフローを紹介します。
以下では、下記の順番に従って、遅刻をしてきた従業員に対する対処をみていきます。
①事実確認

②注意・指導(口頭、書面)

③軽い懲戒(戒告、譴責など)
④配置転換などの対処

⑤重たい懲戒(減給、出勤停止、解雇など)

 

2.事実確認

事実確認の必要性

従業員自身が寝坊して遅刻した場合であっても、直ちに指導・懲戒してはいけません。
一見、従業員に帰責性があるようにみえる場合であっても、例えば、上司によるパワハラで睡眠障害になり寝坊をしていた場合(⇒この場合、遅刻は「会社」の責任です。)など、いろいろな可能性があるからです。
つまり、遅刻をした場合には、まずその理由・背景事情を事実確認する必要があります。

②勤怠理由報告書などの書面の活用

事実確認に関しては、従業員からの聞き取りのほか、できれば遅刻した従業員自身に遅刻した理由を書面で報告してもらうと、後々紛争になった場合の証拠にすることが出来ます。
就業規則や社内規則などで、遅刻の際の手続をフローチャート化し、均一的に取り扱うことができれば、社内の規範意識も高まり不公平感も減少します。チャートの作り方は、会社規模にもよりますので、弁護士等と相談してつくるとよいでしょう。

3.注意・指導

適切な注意・指導とその記録化

事実確認によって、遅刻に関して従業員に「帰責性あり」ということが確認出来たら、次は「注意・指導」を行います。
注意・指導の際には、言葉・注意の長さ(時間)・注意する場所などに配慮し、行き過ぎてパワハラにならないように気を付けましょう。

②書面指導

遅刻が繰り返される場合は、口頭ではなく、書面による注意・指導を行います。

③注意・指導をする際に記録すべき事項

後々紛争になったときの証拠とするため、注意指導をした場合は、下記の点を書面に記録しておきましょう。
・注意の対象となった行為の具体的内容(遅刻した時間、理由、頻度、何回目か等)
・注意をした内容(指導をした日時、場所、指導担当者、指導の具体的内容)
・従前の注意指導に対して改善が見られない場合は、その具体的な内容

4.懲戒

①懲戒処分へ移るタイミング

注意指導をしても遅刻が繰り返される場合や、遅刻の程度が著しい(頻度・時間)場合などは、懲戒処分をとることを検討します。
懲戒処分をする前に、注意・指導した内容を再度チェックし、懲戒処分へと進むのが妥当かどうか確認するとよいでしょう。

②懲戒処分をする前に必ず確認すること

懲戒処分をするには、必ず以下の事項を確認します。

(1)懲戒処分の根拠となる規定があるか
必ず、周知された就業規則等に根拠規定がないといけません(最判平成15年10月10日、フジ興産事件)。就業規則の無い会社は、基本的に懲戒処分はできない場合が多いです。

(2)懲戒処分の根拠となる規定に該当しているか
懲戒処分の規定がきちんと存在している場合は、今回懲戒処分の対象とする行為が、具体的にどの規程に該当していると言えるのかを検討します。
そして、懲戒処分をするときは、きちんと、当該規程のどの規定に該当しているのかを明示して懲戒処分を行います。

(3)懲戒処分に相当性があるか
法律上、懲戒規程に該当する行為であったとしても、それだけでは懲戒処分をしてよい訳ではなく、「相当性」がないといけません(労働契約法第15条)。

労働契約法第15条
(懲戒)
第15条 使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。

「相当性」があるかどうかは、弁護士でも判断が大変難しいところです。特に、重たい懲戒処分(減給、出勤停止、懲戒解雇)をする場合には、「相当性」がないとして懲戒処分が無効になると、会社側に大きな損害賠償責任等が生じる可能性もあります。

③軽い懲戒処分(戒告、譴責)

注意・指導では遅刻が改善しない場合であっても、基本的には、重たい懲戒処分をする前に、軽い懲戒処分のステップを踏んだ方がよいです。
なぜならば、軽い懲戒処分という警告をしても遅刻癖が改善しなかったということは、当該従業員の遅刻の悪性が非常に高いということの証拠になるからです。そうすることで、後々、重たい懲戒処分をしたときに「相当性」を高めることが出来ます。

④重たい懲戒処分(減給、出勤停止、懲戒解雇)

軽い懲戒処分をしても、問題が改善しない場合には、減給(懲罰的に賃金を減ずることです。後記の「勤怠控除」とは全く異なります。)、出勤停止、懲戒解雇などの重たい懲戒処分を行います。
重たい懲戒処分は、従業員の生活に与える影響がとても大きいですから、処分の「相当性」についても高いものが要求されます。したがって、軽い懲戒処分、配置転換、退職勧奨などの代替的に取りうる手段をとった後にする方がよいです。
遅刻による懲戒解雇を認めた裁判例としては、三重近鉄タクシー事件(東京地判平成8年8月15日労判702号33頁)、安威川生コンクリート事件(大阪地裁昭和62年9月26日労判525号 6頁)、否定した裁判例としては、栴壇学園事件(仙台地裁平成2年9月21日577号 55頁)などがあります。
上記の裁判例においては、いずれも、重い懲戒処分の前に軽い懲戒処分や注意指導をしていたかどうかが判断に影響を与えた事例と言えます。やはり、きちんと確認、注意指導、軽い懲戒処分というステップを踏んで手続を行っていくことが肝要といえます。

遅延(帰責事由のない場合)に対する対処 -確認・勤怠控除処理等

1.【2】遅延(帰責事由のない場合)に対する対処のフロー

まず、最初に、遅延をしてきた従業員に対する対処のフローを紹介します。
以下では、下記の順番に従って、遅延をしてきた従業員に対する対処をみていきます。
①事実確認

②就業規則等の内容の確認

③就業規則等の内容に乗っ取って賃金を計算する(勤怠控除処理等)

2.勤怠控除とは?

ところで、具体的な対処フローの検討に入る前に、「勤怠控除」という概念について解説します。

「勤怠控除」とは、遅刻・遅延した時間分だけ賃金が発生しないという取り扱いのことです。懲戒処分としてなされる「減給」とは全く異なる概念です。

時々、「遅延証明書が提出された場合、遅刻した従業員に対して賃金を差し引くことはできないんじゃないの?」とお考えの経営者の方がいますが、実際はそうではありません。別に就業規則等で特別な定めをしていなければ、従業員に帰責性がない遅刻であっても、遅刻・遅延によって労働をしていない時間については賃金を支払う義務はないのです。

これは、労働関係に適用される「ノーワークノーペイの原則」という基本的な考え方です。

3.事実確認 -会社に帰責性がないか?

事実確認の手順については、上記3の遅刻(帰責事由がある場合)のところで触れたものと同じです。
なお、帰責事由がない場合は、書面を提出させる際に「帰責事由なし」であることの証拠として、鉄道各社の発行する遅延証明書を提出・添付させることが重要です。

事実確認によって、遅延に関しては従業員に責任がないということが判明した場合には、1歩進んでさらに「会社に責任があるか」についても検討します。

会社に責任のある遅刻・遅延は滅多にありませんが、例えば上司の伝達ミスや、会社で発生したストライキのせいで始業が遅れた場合などが「会社に責任がある場合」に当たります。
会社に責任のある遅刻の場合は、勤怠控除はできないので注意が必要です。

4.就業規則等の内容の確認

就業規則の確認

事実確認によって、遅刻に関して従業員に責任はなく、会社にも責任がないことが明らかになった場合、つまり「不可抗力」の場合は、就業規則等を確認して、勤怠控除が出来るかどうか検討します。

典型的には、電車遅延や天災による遅延の場合ですね。

就業規則等に不可抗力の場合について規定がある場合

多くの会社では、不可抗力の場合の取扱いについて、規定があることが多いと思います。

典型的な例としては、「遅延証明等の資料を提出して不可抗力である旨証明したときは、賃金計算において控除(勤怠控除)しない」等の規定がある場合などです。

就業規則上に規定があった場合には、その規程の定める通りに取扱います。

ただし、多くの従業員は不可抗力の遅延に備えて早めに家を出るなどしている場合に、一部の従業員のみが遅延をしてチームに迷惑をかける場合などもありますよね。このように、一部の従業員にのみ遅延が繰り返される場合は、業務指導として出勤ルートの調整、遅延の多い路線を避ける方法などを提案してもよいでしょう。

就業規則等に不可抗力の場合についての規定がない場合

就業規則に不可抗力の場合についての規定がない場合は、民法536条1項に従い、「当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったとき」として、勤怠控除することが出来ます。

ただし、このとき注意しなければならないのは、遅刻・遅延時間の切り上げはできないということです(切り下げは可)。つまり、遅刻・遅延については、1分単位で厳密に控除しなければならず、3分遅刻なら3分ぶんの勤怠控除までしかできません。3分しか遅刻していないのに15分ぶんカットしたり、30分しか遅刻していないのに1時間分カットすることはできません。(遅刻した時間以上の賃金の減少を伴う場合は、懲戒処分としての「減給」として行う必要があります。)

民法
(債務者の危険負担等)
第536条 当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができる。
債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができない。この場合において、債務者は、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。

まとめ

以上のとおり、遅刻については、まずは事実確認をし、従業員に帰責性がある・ない場合、さらに会社に帰責性がある・ない場合、続いて就業規則等に不可抗力についての規定がある・ない場合に分けて、具体的な対処を検討しなければなりません。

特に、遅刻に対して懲戒処分を行う際には、その「相当性」も問題になります。「相当性」があるかどうかの判断は非常に難しいのですが、ひとたび「相当性」が否定されれば、懲戒処分無効確認訴訟や慰謝料請求訴訟が提起される恐れもあります。

遅刻を繰り返す問題従業員がいる場合は、具体的な処分を行う前に、弁護士に相談されると安心です。

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