人事・労務 2022.02.14

【注意】給料ファクタリングは違法?コロナ禍で増えている前借りトラブルとは

新型コロナウイルスの感染拡大を受け、リモートワークやオンライン授業が定着しつつあります。

ライフスタイルの変化により、主に、水光熱費・食費などの支出に影響が出ており、「給料の前借りをしたい」でも会社には、信用や人間関係などもあり言いづらい・・・

 そんな人たちの間でトラブルが多くなっている、給料ファクタリングを使うことには、どんな法律上の問題があるのでしょうか?

目次

給料ファクタリングとは

給料ファクタリングは違法なの?

労働基準法24条1項の給料の全額払いの原則とは

②貸金業とは

給料ファクタリングのトラブル

労働者が給料を合法的に、前借する方法はあるか?

雇用者が給料の前貸しをすることは、労働基準法により禁止されている

「前貸」でなけれはOK

雇用者は貸金業の登録をしなければならない?

まとめ

給料ファクタリングとは?

ファクタリングとは、まだ入金期日が来ていない請求書(債権)を買い取ってもらうことで現金化する資金調達方法のことです。

中小企業など法人の資金調達の手法として、海外では古くから使われていました。

このスキームを個人に当てたものが「給与ファクタリング」です。個人が勤務先に対して有する給与という名の「賃金債権」を買い取り、給与が支払われた後に、個人を通じて資金の回収するという手法です。

手数料はかかりますが、早く現金を手にでき、資金繰りを改善できます。

個人でも手軽に資金調達ができるという点と、SNSで個人でも業者にアクセスしやすくなったことなどが、給料ファクタリングが広まった要因とされています。

給料ファクタリングは違法なのか?

結論から言うと、給料ファクタリングは違法です。

金融庁は、平成2年3月5日、保冷解釈に係る書面照会手続(ノーアクションレター)の回答書を公表しています。

労働基準法24条1項は、給料の労働者に対する全額払いを定めており、給料ファクタリングの譲受人が自ら使用者に対して支払いを求めることは許されないとしています。

給料ファクタリングは経済的に貸付に該当し、譲受人は貸金業に該当するとしています。

1. 労働基準法24条1項の給料の全額払いの原則とは

雇用者が労働者に全額を支払わなければならないことを定めています。

労働基準法 (賃金の支払)第二十四条

賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。ただし、法令若しくは労働協約に別段の定めがある場合又は厚生労働省令で定める賃金について確実な支払の方法で厚生労働省令で定めるものによる場合においては、通貨以外のもので支払い、また、法令に別段の定めがある場合又は当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合においては、賃金の一部を控除して支払うことができる。(以下略)

2. 貸金業とは

貸付を「業」として行うとは、一定の目的をもって同種の行為の反復継続的遂行をいいます。

貸金業法(定義)第二条

この法律において「貸金業」とは、金銭の貸付け又は金銭の貸借の媒介(手形の割引、売渡担保その他これらに類する方法によつてする金銭の交付又は当該方法によつてする金銭の授受の媒介を含む。以下これらを総称して単に「貸付け」という。)で業として行うものをいう。ただし、次に掲げるものを除く。

一、国又は地方公共団体が行うもの

二、貸付けを業として行うにつき他の法律に特別の規定のある者が行うもの

三、物品の売買、運送、保管又は売買の媒介を業とする者がその取引に付随して行うもの

四、事業者がその従業者に対して行うもの

五、前各号に掲げるもののほか、資金需要者等の利益を損なうおそれがないと認められる貸付けを行う者で政令で定めるものが行うもの

2、この法律において「貸金業者」とは、次条第一項の登録を受けた者をいう。

(以下略)

給料ファクタリングのトラブル

給与ファクタリングを行う場合、貸金業登録しなければならず、その場合定められた上限金利内で金利を抑えなければなりません。しかし、多くは給与債権の10%~30%を手数料としており、利息制限を大幅に超過しています。

手数料が高いため、結果的に少ない金額で生活を成り立たせることになってしまい、生活環境の悪化や、破綻が懸念されます。さらには、勤務先へ取り立ての電話が来る・自宅への取り立てなど、トラブルは多く報告されています。

労働者が給料を合法的に前借する方法はあるか?

雇用者が給料の前貸しをすることは労働基準法により禁止されている

労働基準法 (前借金相殺の禁止)第十七条

使用者は、前借金その他労働することを条件とする前貸の債権と賃金を相殺してはならない。

雇用者が労働者に対して労働することを条件として前貸しをすることはできません。

「前貸し」でなけれはOK

しかし、同条で禁止しているのは前貸しです。

そこで月末給料支払いの事業所の場合、たとえば、以下の手順で対応します。

  1. 労働者が5月1日から5月20日まで労働を提供
  2. 5月21日に、5月1日から20日までの既往労働分の賃金を貸し付け
  3. 5月31日の給料支払日に、この給料と前貸金を相殺する

この方法であれば同条の前貸金相殺禁止には該当しないと考えられます。

しかし、給料と前貸金を相殺することは、すでに説明した労働基準法24条1項の給料の全額払いの原則に違反すると考えられます。ところが、同条ただし書きには

・法令に別段の定めがある場合又は当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合においては、賃金の一部を控除して支払うことができる

としています。そうすると、労働組合と既往労働分の前貸金と給料を相殺(天引き)する合意がある場合には、前借金との相殺が可能になります。

雇用者は貸金業の登録をしなければならない?

雇用者が労働者に対して、既往労働分の給料を前貸しすることは、貸金業に該当して、貸金業の登録をしなければならないかがあります。
しかし、上記の貸金業法2条1項4号では、「事業者がその従業者に対して行うもの」は貸金業に該当しないとしています。

まとめ

給料ファクタリングは、貸金業に該当し、金利もその規制を受けることになり、短期間の融資で多額の金利を負担することになるなどトラブルが多いので、利用することはお勧めしません。

既往労働分の賃金を、給料支払い日前に前借して、給料と相殺して返済することは、一定の条件を備えれば法律上可能と考えられます。まずは働き方改革の一環として、緊急事態宣言解除後に、必要があれば労使で給料前借の環境を整備することも考えられるのではないでしょうか。

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