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Pickup 2021.03.02

従業員が逮捕された時の対処法

 

「社員の〇〇さんが逮捕されました。」という電話が突然、会社に掛かってきました。どのように対応すればよいのでしょうか。

目次

会社は何も知らないまま?

①逮捕・勾留が長期化して伝えざるを得ないという場合

②釈放の際の身元引受人として依頼がある場合

③社内での業務上横領など、会社が被害者である場合

逮捕されても有罪とは限らない

復職後のことも視野に

コンプライアンスの問題

まとめ

会社は何も知らないまま?

今回のテーマからすれば元も子もない話ですが、そもそも、従業員が逮捕されたという情報が会社に知らされる事はそう多くありません。警察は捜査の必要が無い限り、会社に事件のことを連絡しません。逮捕された従業員やご家族も、できれば会社に逮捕の事実は秘密にしておきたいと考えます。弁護士としても、当然本人の意思を尊重して行動することになりますから、独断で会社に連絡するということはありません。

会社に逮捕の情報が伝えられるのは、大まかに分けて、次の3パターンが考えられます。

①逮捕・勾留が長期化して伝えざるを得ないという場合

例えば比較的軽い罪で逮捕され、示談も済んでいるような場合には、逮捕から3日ほどで身柄が釈放されることも少なくありません。このようなケースであれば、ご家族に「会社には病気と伝えて下さい」とお願いして、何とか会社に知られないようにすることも多いのです。しかし、身体拘束が10日、20日と長期化していくと、会社に対する言い訳も通用しなくなってきます。このような場合には、会社に逮捕・勾留の事実を伝えることも視野に入ります。

②釈放の際の身元引受人として依頼がある場合

警察や検察に釈放を求めたり、裁判所に保釈を求める際には、留置所や拘置所から出た後に逃亡するおそれがないかという点が考慮されます。そのため、ご家族に身元引受人となって被疑者を監督するとの誓約書を書いて頂くことが多いのですが、親族が居ない、あるいは遠方に住んでいるという方の場合には、身元引受人を会社の方にお願いする場合があります。

③社内での業務上横領など、会社が被害者である場合

この場合には通常、警察や検察から逮捕や捜査状況に関する連絡があります。ちなみに、検察庁は平成28年に定められた「被害者等通知制度実施要領」において、被害者から希望があった場合に限り、事件の処理結果を通知するという運用を定めています。検察庁は被害者に連絡を行った際に、通知希望の有無を確認していますが、確認がなかった場合には会社側から希望を伝えておくとよいでしょう。

逮捕されても“有罪”とは限らない

逮捕の事実を知らされたと場合、会社として大切なのは、「逮捕=有罪」という前提で対応しないことです。日本における有罪率が99.9%という話はよく聞かれますが、これは検察官により起訴がなされ、裁判が行われた場合に限ったデータです。

検察庁の統計によれば、平成30年の起訴率(検挙された事件について裁判が申し立てられた割合)は約32.9%です。不起訴になる理由は、嫌疑なし(無罪と考えられる)、嫌疑不十分(証拠が不足している)、起訴猶予(有罪と考えられるが酌むべき事情等がある)などがありますが、少なくとも7割近くの事件については、検察庁が「刑事裁判を行うことは相当ではない」という判断をしているのが実情です。

会社としても、このような実情を軽視すべきではありません。初動対応として重要なのは、拙速な判断を下すことを避け、正確な事実を把握することです。不確かな事実をもとに懲戒処分を行った場合には、会社側が法的責任を負いかねません。少なくとも、従業員本人への聴き取り調査等を行うことができるまでは事態を見守ることをお勧めします。

調査が終わり、本人が罪を認めている、あるいは罪を犯したことが明らかという場合であっても、常に懲戒解雇などの重い処分が認められる訳ではありません。例えば裁判例では、公務員が飲酒運転で事故を起こした場合において、飲酒運転の事実があるというのみで懲戒解雇を有効とするのではなく、当該公務員の勤務成績や事故後の態度、職場に報告を行ったかなどの諸事情も考慮して有効性を判断したものが見受けられます。犯罪行為を認めているからと言って、安易に処分を行ってしまうと労働問題に発展し、結果的に会社が損害賠償責任を負う可能性があります。重い懲戒処分を下す場合には、専門家のアドバイスを受けることも選択肢に入るでしょう。

復職後のことも視野に

また、一連の問題に関する対応は、役員のほか、限られた範囲の人事担当者、上長などで行うに留めるべきです。処分が不要と判断される場合、あるいは譴責や減給等に留めるのが相当である場合、当該従業員は会社で働き続けることになります。しかし、会社の多数人に逮捕の事実が知られてしまうと、復職後の問題発生が懸念されます。目に見える範囲での問題であれば、配置転換等で対応可能な場合もありますが、個々人の心理に生じる問題は解決できません。「逮捕=犯罪者」というレッテルが貼られる傾向にあることは否定できませんし、行為の内容によっては嫌悪感を抱く人も居るでしょう。そのような人々に「前と同じように接してあげてくれ」とお願いしても無理がありますから、結果的に見えない部分で組織としての生産性が落ちることが予想されます。

法的にも、会社は職場環境配慮義務を負っていますから、当該従業員にとっても働きやすい環境を保つ義務があります。社内に逮捕の事実を広めるという行為が、この義務に違反することは明らかでしょう。逮捕されたという事実は本人にとって隠しておきたい情報でしょうから、プライバシー侵害や名誉毀損の問題も生じ得ます。逮捕の事実を社内に広めることは、百害あって一利なしと言ってよいでしょう。

コンプライアンスの問題

ここまで述べてきたように、慎重な対応が原則であることは間違いありません。しかし近年、大企業のみならず中小企業においても、コンプライアンスの向上が求められ、問題発生時の対応ミスが炎上を招く事例が見受けられます。

会社の顧客が被害者となってしまった事件や、社会的責任が問われるような事案に関しては、慎重な対応が裏目に出て無責任との批判を招くこともあるでしょう。このような事案では会社のイメージを守るため、積極的に意見を表明し、対応方針を掲げるなどの方策が必要となります。もっとも、この対応が行きすぎると、従業員との間で法的問題が生じかねません。ビジネスと法律双方の視点から、限られた時間で的確な判断を下す必要がありますので、コンプライアンスリスクが大きい場合には、専門家に相談することを強くお勧めします。

まとめ

本来、従業員の刑事事件と会社は無関係ですが、対応いかんによっては従業員との間で法的問題が発生する可能性もあります。
従業員が逮捕されたときに最も重要なのは、会社が今すぐ対応すべき事案なのかどうかという見極めです。拙速な処分は労働問題などに繋がりかねません。まずは事実確認を行うことから始めましょう。

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