新型コロナウイルス感染症の感染拡大により、海外からの輸入制限、従業員の集団感染による業務の遅延、緊急事態宣言の発出による経営の悪化・・・など、さまざまな理由で商取引の履行ができないケースが散見されます。
このように、新型コロナウイルスの影響で契約どおりの履行ができなくなってしまったら、どのような責任が問われるのでしょうか?2020年4月1日に施行された改正民法では、どのようになるのかを見てみましょう。
目次
民法の見解は?
不可抗力とは?
新型コロナウイルスは不可抗力にあたる?
不可抗力を明確にするために
帰責事由がない場合は、損害賠償義務がない
契約内容の確認
任意規定の特約はある?ない?
まとめ
民法の見解は?
民法は、金銭債務の債務不履行については不可抗力をもって抗弁できないとしています(419条3項)。
そこで、金銭債務以外では、不可抗力により債務不履行責任を免れると考えられます。
不可抗力とは?
①天災地変のような(地震・台風・戦争)人の力で防ぐことができないこと。
②社会通念上、必要であろうあらゆる注意や予防を尽くしても防止できないこと。
といった定義がされますが、具体的にどのような事象が含まれるかは明確ではありません。
新型コロナウイルスは不可抗力にあたる?
新型コロナウイルスの感染症と緊急事態宣言の影響が不可抗力にあたるかは明確ではありません。
流行以前に締結された契約条項には、「新型コロナウイルスが不可抗力に該当する」と言う項目が定められていない場合や、「その他不可抗力事由が生じた場合」と包括的に定められていることが多いため、不可抗力に該当するかどうかを判断しなければなりません。
不可抗力を明確にするために
不可抗力の場合には債務不履行による損害賠償責任を負わないことを明確にするために、契約条項に盛り込む場合の例としては
- 天災(地震・洪水・疫病・伝染病等)
- 人災(戦争・ストライキ等)
- 法令の制定/変更等
が考えられます。
しかし、仮にコロナ感染症が不可抗力に該当したとしても、第三者の流通業者の配送停止などによる影響は不可抗力に当るかなど、不明確な部分が残ります。
その場合、債務不履行について債務者の、帰責事由を否定して損害賠償責任を逃れることができないか、を検討することとなります。
帰責事由とは?
帰責事由とは、「責めに帰すべき事由」を略したものです。
事故や債務不履行に「故意」「過失」があったため、当事者は責任を取る必要があると言うことです。
帰責事由がない場合は損害賠償義務がない
新民法では、債務不履行に債務者の帰責事由がない場合には、損害賠償義務がないとしています。
詳しくは、債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき等に、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因および取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、損害賠償義務がないとしています。
法務省の見解は?
法務省ホームページ(※)には、「新型コロナウイルス感染症の影響で、商品を仕入れることができなくなった場合の留意事項について」、以下の説明があります。
商品を仕入れて顧客に売却する契約を締結していたところ、商品を仕入れることができなくなり、顧客に契約どおり商品を引き渡すことができなくなった場合には、契約上の義務を履行することができなかったことの責任(債務不履行責任)として、相手方に対する損害賠償義務等を負うこととなります。
もっとも、新型コロナウイルスの影響があったために債務者に帰責事由がないと評価される場合には、その責任を負いません。帰責事由の有無の判断は事案ごとに判断されるものであり、一概にはいえませんが、個々の契約の性質、目的、締結に至る経緯等の諸事情や社会通念を勘案して判断されます。
※新型コロナウイルス感染症に関連して,イベントや旅行が中止になった場合のキャンセル料等に関する留意事項について
契約内容の確認
そうすると、「商品を仕入れて顧客に売却する契約を締結していた」場合には、任意規定による契約内容について、以下のような内容を確認していきます。
- 納品期限についてどのような取り決めがあったのか
- 当事者はどのような意図で契約を締結したのか
新型コロナウイルスによるトラブルの場合
- 非常事態宣言に基づき都道府県知事から、休業要請を受けている業種か
- 事業を継続するために通常必要な、対策・対応を尽くしたか
などを社会規範も考慮して判断することになります。
そして、契約内容によっては不可抗力とされる自然災害があっても、債務を履行する責任があることを合意する場合もあり得ます。
任意規定の特約はある?ない?
他方で、当事者の契約に任意規定の特約がなく、民法の規定に従うというというものである場合には、債務者は契約不履行としての損害賠償責任を負うものと考えられます。
まとめ
帰責事由の有無と損害賠償責任の有無は、民法の条文からストレートに判断されるのではなく、社会規範を勘案した契約の趣旨を勘案した契約の趣旨から判断することになります。
トラブルが発生した場合には、契約内容をまず確認して、具体的な事案解決は弁護士に相談しましょう。
なお、新型コロナウイルス感染症の影響による取引トラブル対応にあたっては、契約が締結されたのが、新民法施行日の2020年4月1日前であれば、旧民法が適用されます。
また、施行日前に債務が生じた場合の債務不履行責任には、旧民法が適用されます。
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